北朝鮮が「米朝会談」にやけに乗り気な事情 主導権を握っているのは金正恩だ

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文大統領は、制裁措置や圧力政策を支持した。しかし彼はまた、韓国政府は行き詰まりを打破したい考えであることも明確にした。文大統領の演説は、西側諸国ではあまり広く報道されなかったが、かつて2つの進歩的政権が支持した南北関係における「太陽政策」をうたうものだった(文大統領は盧武鉉元大統領の秘書室長を務めていた)。

韓国の進歩的な政治家たちは、ジョージ・W・ブッシュ政権が強硬な態度をとり、2008年に韓国で政権をとった保守政権が協調構造を解体する決定さえしなければ、太陽政策が機能して北朝鮮を変えていただろうと深く信じている。彼らからすると、制裁措置や圧力は長期的にはほぼ機能せず、せいぜい限られた効果しか得られない。

「電撃発表」への道のり

進歩主義者たちは、太陽政策で再びドアを開きたいと文大統領の下、政権を奪取した。「今、われわれは北朝鮮とともにその決定を任された」と文大統領はベルリンで語った。しかし、この半年間、北朝鮮政府は何の興味も示さなかった。代わりに彼らは、核兵器やミサイル発射システムの実験ペースを加速した。戦争の話は太平洋を挟む両サイドでエスカレートし、経済制裁は厳しくなっていった。

しかし、変化の兆しは新年恒例の金正恩氏の演説に見えた。金氏は、米国本土まで届く核兵器の実験を成功させたことと、「銃(軍事)」と「バター(経済)」を追い求める北朝鮮の2重路線「並進政策」のうちの、経済面により力を注ぐ準備ができたことを宣言した。さらに驚くことに、彼は注意を韓国に向け、冬季オリンピックを支持し、文大統領との対話を申し出たのだ。

南北が協調するオリンピックの成功がそれに続き、2007年以来になる3度目の南北首脳会談の開催が合意された。韓国は、過去2回の南北首脳会談でまとめ役を務めた国家安保室長率いる特使団を平壌へ派遣したが、それが、先週のワシントンでの「電撃発表」へと即座につながったのだ。

「物事は期待どおりの方向へ動いているが、その速度は期待を超えている」とソウル在住の北朝鮮問題に詳しいアナリストのアンドレイ・ランコフ氏は話す。同氏は冷戦時代に北朝鮮で長く過ごした経歴を持つ。

最初に動きをとったのは金氏のほうだとランコフ氏は見る。金氏は今、小さな譲歩を提供する立ち位置にあり、核開発計画に影響を及ぼすことなく実験の凍結を申し出ることさえ可能だ。北朝鮮は、トランプ大統領が繰り広げる戦争話に慌てているのであり、経済的な締めつけの影響はそれほどでもないとランコフ氏は見る。

「制裁措置も軍事的な脅しもどちらも現実ととらえられてはいるが、これまでのところ、制裁措置には顕著な効果はない」とランコフ氏は語る。平壌を最近訪問した人々の証言によれば、穀物価格や交換レートは安定しているという。

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