「裁量労働制」の悪用を見極めるポイント5選 自由がゆえに際限ない長時間労働リスクも

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それだけでなく、仮に労使間の合意のプロセスを踏んだとしても、「みなし」の労働時間数が、実態の労働時間数とかけ離れていたら、直ちに違法とは言えないが、行政指導の対象となることがある。

実態と合わない「みなし」労働時間数での労使合意を会社から迫られた場合、立場の弱い労働者はそれを拒否することが難しい。適正な「みなし」労働時間数で合意がなされているかのチェックは、今回のNHKに対する渋谷労働基準監督署の調査のように、行政指導に期待したいところである。

条件を満たさない裁量労働制はすべて違法

第5のポイントは、裁量労働制で働く労働者を保護するための仕組みが会社内で構築および周知されているかどうかである。

裁量労働制を導入する会社は、その対象となる労働者を長時間労働や過労から守るため、一定の対策をしなければならないことが法律で求められている。具体的には、「対象労働者の健康・福祉の確保措置」と「対象労働者からの苦情処理措置」である。

「対象労働者の健康・福祉の確保措置」は、タイムカードなど客観的な方法による実労働時間の把握を行うことや、必要に応じて健康診断や産業医との面談を行うといったことが考えられる。

労働時間の把握は賃金計算だけでなく、健康管理の面からも重要な意味を持っているので、裁量労働制だからといって労働者の実労働時間の把握を怠ることは、使用者の安全配慮義務違反に当たる。1分単位までの把握までは求められないにしても、少なくとも職場への入退場時刻は把握できる仕組みが構築されていることが望ましい。

「対象労働者からの苦情処理措置」は、苦情申出の窓口や担当者、取り扱う苦情の範囲、処理手順・方法などを定め、周知を行うことである。裁量労働制で働く労働者がためらうことなく働き方などについて相談することができる窓口の存在は、裁量労働制を導入する会社の必須条件である。

裁量労働制が適用されている職場においては、以上のような仕組みが構築されているかを確認してほしい。

そもそも裁量労働制とは厳格な法律要件をクリアして、はじめて合法的に導入できる制度なのである。

今後、高度プロフェッショナル制度など、さらなる労働時間の規制緩和が予想されている。規制緩和だけ進んで労働者を保護する仕組みが形骸化しないよう、その布石として、まずは労働者が既存の裁量労働制が正しく運用されているのかを振り返り、同時に会社は法律に沿った、正しい運用を徹底していくことが必要だと筆者は考えている。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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