知られざる地雷、「マンションの駐車場」問題 行政の「付置義務」が解決を難しくしている

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ただ、マンションデベロッパーは「不可抗力の面も大きい」と苦しい胸中を吐露する。住民に駐車場利用のアンケートを実施するのは、希望者に駐車位置を割り振り、入居をスムーズにするため。そもそもアンケートの実施は、自治体との調整を済ませ、駐車場台数を含めた建築確認を取り、着工した後だ。その段階で利用者が少ないことがわかっても、収容台数を変更するには、再届け出と調整に多大な手間暇と膨大な費用がかかり、引き渡しスケジュールまでが変わってしまう。「現実問題として(着工後の)台数変更は不可能」(マンションデベロッパー)。

商業ビルでは付帯義務を緩和

神奈川県横浜市にある「ザ・パークハウス横浜新子安ガーデン」も、2015年の引き渡し直後から空き車室に悩んでいた。

このマンションの駐車場は機械式立体だが、入居直後から稼働率は7割程度と低かった。このため1期目の理事会が危機感を抱き、外部への貸し出しなどを検討。しかし、マンション敷地内へ外部者が立ち入ることがネックとなり、セキュリティ面から断念。そこで長期修繕計画の見直しと合わせて、立体駐車場の一部を潰して平面式に転換することで、負の遺産とならないよう模索している最中だ。

ただ、こうして早くから見直しに着手できるのは異例中の異例。駐車場運営大手の日本駐車場開発で、長年、マンション駐車場に関する相談業務を行ってきた井野雅久コンサルティング部部長は「そもそも危機意識が薄く、潰す決断そのものができるマンションは少ない」という。

国土交通省は2017年末に商業ビルや事業用ビルに対しては、付置義務台数の緩和に乗り出した。この背景には、付置義務制度により需要を超える駐車場が設置され、明らかな歪みが生じていることがある。これはマンションに関しても同じことがいえるはずだ。

今回の指針をまとめた国土交通省都市局は「マンションに関して問題が起きているとの声は(国交省に)届いていない」と言い切る。何らかの対策を講じる必要があるのではとの問いに対しても「各自治体が考えるべきもの」と素っ気ない。

マンションにおける空き駐車場が本当に切実な問題として浮上するのは、10年後、20年後という時間を経てからだ。その間、空き駐車場はじわじわとマンションの財政をむしばみ続ける。問題が顕在化したときに付置義務の台数を緩和しても問題は解決しない。少なくとも過大な付置義務は早急の見直しが必要だ。

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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