旅こそが「ソロタイム」の最良の過ごし方だ なぜ旅人は「賢者」のような眼をしているのか

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物を持たない野生動物が、人間のような鬱屈した心を持たないのと同じように、人も、ものを持たず、移動し続けていた頃の人間は、心を軽く、新鮮に保つことができていたのではないか。私はそう、夢想することがあります。

狩猟採集生活で常に「ソロタイム」を過ごしていた

農耕を行い、定住するようになるまでの数百万年という長いあいだ、人類は狩猟採集生活を送ってきました。それはいわば「旅をし続ける生活」であり、彼らは常に「ソロタイム」を過ごしていたと言えるかもしれません。

農耕を覚え、一箇所に定住するようになった人類は、旅の代わりに、「掃除」と「片付け」をするようになりました。

筆者の近著『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

ずっと移動し続けていた狩猟採集民の所有物は「持ったまま移動できるもの」だけであり、そこには「掃除」も「片付け」も存在しませんでした。

定住し、所有するものが多くなればなるほど、私たちは多くのモノから影響を受け、それによって、アイデンティティを強化するようになった。その結果、私たちは、「変わること」あるいは「生まれ変わる」ことが、苦手になったのだと思います。

持ち物を手放し、身一つで旅に出る。そうやって自分のアイデンティティの一部から手を離すことによって、「群れ」に制約され、神経症気味になった私たちの心を、リフレッシュすることができるのです。

名越 康文 精神科医

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なこし やすふみ / Yasufumi Nakoshi

1960年、奈良県生まれ。精神科医。専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、99年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSコミュニケーションズ、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。
夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」刊行中。オフィシャルウェブサイトはこちら。twitterはこちら

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