米国金融危機--金融システム不安と実体経済悪化の懸念高まる
現地時間12日夕方からニューヨークで持たれたリーマン・ブラザーズ救済に向けた米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)、大手金融首脳らの協議は週末3日間を費やした揚げ句、不調に終わった。週明け15日、全米証券4位のリーマンは連邦破産法11条を申請して破綻。同社の救済候補だった商業銀行大手、バンク・オブ・アメリカは一転して経営不振下にある証券3位のメリルリンチの統合に傾いた。
疑心暗鬼に陥った市場が次に狙いを定めた保険大手、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は16日、FRBから850億ドルの信用供与枠を取り付け、破綻の淵から救われた。世界に名をとどろかせたビッグネームが次々と淘汰の波にさらわれた2008年9月の1週間は、歴史に深く刻まれるだろう。
サブプライム危機は1年で悪夢のような金融恐慌に突入した。米当局は7日、ファニーメイとフレディマックの住宅金融公社2社を2000億ドルの優先株引受枠設定により救済表明、国家管理下に置いた。金融市場は落ち着くものとみられたが、ドミノ倒しは始まってしまった。貯蓄金融機関ながら住宅ローンをテコに銀行6位の資産規模にまで成長したワシントン・ミューチュアルも市場の荒波に飲み込まれそうだ。
こうした状況は1990年代後半に起きた日本の金融危機を想起させる。数度にわたり危機の波が襲い、淘汰される金融機関が選別され、公的資金投入額は積み増された。
リーマンには11年前に自主廃業に追い込まれた旧山一証券の姿が重なって見える。当時の日本では総会屋事件などにより証券会社への風当たりが強まり、とりわけ旧山一は“飛ばし”による粉飾決算にも手を染めていた。そのような会社が救済されるはずはなかった。
米国の投資銀行は最近まで栄耀栄華を誇った。だが、所得格差拡大で“強欲(グリード)”に対する批判は高まっていた。サブプライム問題では詐欺的な貸し付けなどが浮き彫りとなり、400人を超す逮捕者が出ている。中でも証券化ビジネスに傾斜したリーマンの悪名は高く、多くの訴訟を抱えていた。ビッグネームの一角を占め、相対的に財務基盤の弱い存在は「金融機関だけが政府に救済されるのか」「モラルハザードだ」との世論に応じた“いけにえ”になりやすい運命にあった。
3月のベアー・スターンズ危機では、破綻すれば「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれる信用デリバティブの市場を通じて、取引相手である世界中の金融機関に損失の輪が広がるおそれがあった。だが、この点、信用不安にさらされ続けたリーマンを相手とするCDS取引は縮小され、破綻の影響をある程度封じ込めることができた。
AIG救済の真因は膨大なCDS取引
一方、AIGは「大きすぎて潰せない」の典型だ。同社は一般に保険会社として知られるが、世界を股にかける巨大な運用会社というのが実態に近い。「モノライン」と呼ばれる金融保証会社と同様の業務を行う子会社がCDO(債務担保証券)の保証ビジネスなどを中心に展開。6月末では実に想定元本4410億ドルものCDS取引を抱えてもいた。自身が格下げに遭ったことで、取引維持のために追加担保を迫られ、資金繰りが悪化したのである。