復元「赤い丸ノ内線」は乗客を乗せて走れるか 教育用に里帰り、営業線走行にはハードルが

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500形は1996年に全車両が引退したため、20代~30代のメンバーは業務で直接触れたことはなく、日頃は現代のハイテク車両を扱っている彼らには驚きも多かったようだ。才口さんは「基板にはんだ付けされているような装置が一切なく、スイッチなど基本的な機械の組み合わせ」である点に現在の車両との違いを感じたという。「今なら2~3個のスイッチで済むところにスイッチが10個以上もある。床下も装置がぎっしりで、作業で潜ると狭い。時代が進むにつれて機器が集約・小型化されたことがよくわかった」と才口さん。復元作業は「教材」としての役割を十分に果たしているようだ。

修復にはさまざまな難関があった。その1つは車体の落書きを落とす作業だ。「私たちが経験したことのないようなひどい落書きだった」と増澤課長。アルゼンチンでは長い間港に置かれていたため「機器類の汚れを落とすのも一苦労だった」(才口さん)という。車体に穴が開いている箇所も多かった。ブエノスアイレス地下鉄では路線の規格より車両がやや小さかったため、ホームとの隙間を埋めるためのステップを車体に取り付けていたが、この取り付け穴や腐食により、1両あたり150箇所もの穴があったという。

桜満開の中を走れるか?

今にも走り出しそうな状態にまで復元された500形だが、現時点ではまだ電気配線などを整備しておらず「完成程度でいえば6割くらい」(増澤課長)。目指すは自力走行だが「アルゼンチンで電気回路の改造が多々行われているので、こちらで使えるかどうか回路などを1つひとつ確認していく必要がある」という。すでにモーターはメーカーで手入れを行っているといい、配線関係が今後の修復の焦点だ。動くようになってからも「細かい調整などが大事な教育になる」と増澤課長はいう。

だが、自走できる状態まで復元しても、車両基地から出て丸ノ内線の線路上を走るには高いハードルがある。ATC(自動列車制御装置)などの保安装置が現在のシステムに対応していないためだ。自走可能になっても、当面は工場内などでの走行に限られる。

だが、留岡常務は「やるとしてもイベントという形になるが、想いとしては1回は(本線に)出したいという気持ちはある」と語る。実は、1両でも走れる500形をあえて3両復元したのは「1両だと故障した場合に動かなくなってしまうが、3両なら残り2両で動かせる」ためだという。

昨夏に500形が里帰りを果たした際、東京メトロの担当者は「ブエノスアイレス地下鉄には『里帰りしたら、桜が満開の四ツ谷を走る風景の写真を送ってくれ』と言われたんです」と語っていた。地球の反対側の地下鉄関係者も待ち望む「赤い電車の本線走行」は、はたして実現するだろうか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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