韓国の憂うつ、冬季五輪開催地の寂しい実態 現地ルポ、4カ月後に迫るピョンチャンの今

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朴前政権が、財閥との贈賄で倒れてから、企業と政権との文化は完全に変わったという。

「前大統領が背任となり、裁判沙汰になったことで企業イメージにも響いたから当然でしょう。特にサムスンは副会長が裁判中ということもあり、慎重な態度に転じていて、他の企業もオリンピックへの支援は様子見といった感じです」(前出の地元紙記者)

北朝鮮のミサイル発射も懸念事項に

そこに追い打ちをかけているのが北朝鮮からの挑発だ。北朝鮮のたび重なるミサイル発射実験や核実験により、9月に入るとIOC幹部が「オリンピックをボイコットする国が出るのではないか」と懸念を表した。程なくそれは現実となった。9月下旬にはフランスのローラ・フレセル・スポーツ相が「状況次第で平昌オリンピック参加を見送る」と発言。これに他の欧州各国も同調するような動きを見せ、韓国は不穏な雰囲気に包まれた。

結局、フランスは不参加発言を撤回し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も9月にIOCのトーマス・バッハ会長と会談後、「緊密な話し合いをしている」とオリンピック開催に支障がないことをアピールするなど、一連の懸念を払拭する対応に追われていた。

文大統領はこの平昌冬季オリンピックで北朝鮮との南北合同チームを結成したいとかねてから提案していたが、国際社会が難色を示していたのは周知のとおり。ところが、9月29日に北朝鮮のフィギュアペアがオリンピック出場枠を獲得すると、韓国では、これを弾みに合同チームへと期待するような報道もみられた。

出場選手が滞在する選手村の整備も急ピッチで進められている(筆者撮影)

しかし、と韓国全国紙のある記者は言う。「実際のところ南北合同チームは難しい。ただ、北朝鮮の選手がオリンピックに参加すれば、もしかしたら、南北対話のきっかけになる可能性もあります。それにオリンピック期間だけでも北朝鮮の挑発が止まるのではないかという冗談も飛び出しています」。

平昌町の食堂の店主はこんなことを言っていた。「私たちはオリンピックの恩恵はそれほどうけません。ですが無事にオリンピックが開催してくれればいいと思っています。開催が迫ってくると終わった後のことも現実的になってきました。冬季オリンピック後に成功した都市は少ないそうじゃないですか。長野はそれでも成功したほうだと聞きましたが、どうでしょう? 平昌も、オリンピックが負の遺産にならないようにしっかり対策をとってほしい」。

平昌冬季オリンピックは2018年2月9日、幕を開ける。開催まで残された時間はわずか4カ月だ。

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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