残業197時間の運輸会社「社名公表」への疑問 法律違反は許されないが根本解決にならない

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「社員を安く使い捨てて、会社や経営者だけが儲けているのではないか」という批判もあるだろう。ただ、2016年度の有価証券報告書によると、役員報酬は社外取締役を除く4人で1億0305万円であり、1人当たり平均は2000万円程度で、上場企業役員としてべらぼうに高いワケでもない。

また、会社自体についても、2016年度は売上高88億円に対し、純利益は2.3億円なので、売上高純利益率は2.64%にとどまる。「社員を犠牲にして会社に利益をため込んでいる」という批判も当てはまらない。

数字上のデータを総括すると、厳しい競争の中、経営の舵取りに苦労しているという姿が浮かび上がってくる。

また、インターネットで確認すると、大宝運輸は目下、ハローワーク、民間求人媒体含め求人を募集している。しかし、現在は「売り手市場」といわれており、運輸業の有効求人倍率は3.41倍と極めて高く(全職種では1.31倍)、新規採用が難しい環境が続いている。

こう考えると、会社として努力をしていなかったわけではないが、経営環境の厳しさから、労働基準法を守り切れなかった、という側面があったのかもしれない。

もちろん、労働基準法違反を行った大宝運輸に何らかのペナルティを与えることは必要であるが、社名公表が最善の策だったかどうかには疑問が残る。今回社名が公表されたことで、いっそう新規採用が難しくなったり、新たな退職者が出たりして、既存社員1人当たりの負荷がさらに高まり、労働環境が逆に悪化してしまうおそれがありうるからだ。

建設的な議論や政策につなげる

「労働基準法を守れない会社は潰れてしまえばいい」という意見があるかもしれないが、会社が潰れると大量の失業者が生じてしまうことはもちろん、大宝運輸を含め、運輸業は私たち一人ひとりの生活、ひいては日本経済を支えるためになくてはならない産業である。

たとえば、日本中どこでも、コンビニでいつでも気軽に弁当やジュースが買え、スーパーには新鮮な野菜、肉、魚が並んでいるのは、運輸業の会社や、そこで働く方々のおかげである。

しかしながら、わが国になくてはならない産業のはずなのに、統計的に見ても、多くの運輸業の会社が人手不足や長時間労働に苦しんでいる。

とするならば、今回の企業名公表においても、大宝運輸をブラック企業と批判するに終始するのではなく、これを機に、運輸業の経営や労働環境を厳しくしている構造問題が何なのかということを明らかにし、どうすればそれを改善していけるのかということに着眼し、建設的な議論や政策につなげていくことが望ましい。そうしなければ、同じことが繰り返されるだけだ。一罰百戒だけで済ませていい問題ではない。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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