甲子園で進撃、天理は「選手任せ」野球で強い プロ経験者・中村監督の「自由主義」指導法
中村監督は高校生の指導についてこう語る。「プロ野球で学んだことはたくさんありました。でも、生徒との接し方、アドバイスの仕方については引退後に学びました。天理大学野球部の監督を5年半、その前に中学生のクラブチームの監督を9年しました。天理高校でも恩師の下で1年半コーチをさせてもらいました。そういう経験をして、自分なりに少しずつ指導できるようになってきたのかなと思います」。
高校野球では、仮にトップ選手であっても技術に体力、そして野球への理解もまだまだ発展途上だ。指導者からすると、それだけに教える難しさもやりがいもひとしおである。「プロの技術を高校生に教えるのは難しい。体力的にも違いますし、理解力もまだ足りません。だから、ひとつできたらその次のレベルに行けるように、少しずつステップアップできるようにと考えています」。
監督のひと言をきっかけに急成長したエース
8月18日、大会10日目の3回戦で天理は神戸国際大付属(兵庫)を下して5年ぶりのベスト8進出を決めた。この日、勝利につながる好投を見せたエース、碓井涼太の成長のきっかけになったのが、中村監督のひと言だった。
「スリークォーターから投げてみたら?」
碓井は昨年秋に背番号1をつけることができず、秋季大会でも登板の機会がなかった。ピッチングフォームをスリークォーター(オーバースローとサイドスローの間の角度から投げるフォーム)に変えたことで大きな武器を手に入れた。
「碓井はもともとオーバースローだったんですが、身長も高くないし、スピードもそんなに速くない。特徴のないピッチャーだったので、『ちょっと工夫しないとなあ』と話しました。秋の予選で負けてからスリークォーターを試したら、球自体もすごくよかった。『シュートやシンカーを投げてみたら?』と言うと、簡単に投げる。そのあとは自分で努力して、キャッチャーのサイン通りに投げられるようになりましたね」
さらに碓井はインコースの球をコントロールする能力が高い。スリークォーターから3種類のボール(ストレート、シュート系、落ちるボール)を自在に、インコースの高低に投げ分けることができる。対戦相手は当然、データを集めて分析しているが、簡単には打ち崩せない。この日の神戸国際大付の打線が、まさにその例だった。
ひとりの成長はチームに刺激を与えた。下級生はエースの背中を見て、さまざまなチャレンジを始めた。「碓井が恐れずに自分を変えていく姿を見て、フォームを変えたり、ポジションを変えたりする選手が増えました」。
チームの姿勢にもある変化が表れたと中村監督は言う。「春先くらいから、意見を言ってくる選手が増えました。自分発信で動いてくれるので、指導していても面白いですね」
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