創業家に「NO」 すかいらーく内紛劇の深層
外食大手すかいらーくで内紛が表面化した。創業4兄弟の一人、横川竟(きわむ)社長が大株主から退任要求を突き付けられたのだ。1970年代にファミリーレストラン業態を切り開いてきた業界の立役者が退場を迫られている。大株主は野村プリンシパル・ファイナンス(保有比率61・5%)と英CVCキャピタルパートナーズ(同35・6%)。すかいらーくが2006年にMBO(経営陣による買収)を行った際、横川社長はじめ経営陣とともに出資した投資ファンドだ。
目標未達の改革
「大胆な経営改革と約5万人の株主の意見を一致させるのは困難」。MBO時の宣言どおり、横川社長は非上場化後に不振業態からの撤退など改革を進めてきた。だが、今のところ主だった成果は出ていない。仕入れ食材の高騰など、外食産業を取り巻く環境は厳しい。前期は経常赤字に転落。MBO当初にファンド側に提示した経営目標数値を複数回下方修正してもいる。
野村グループは08年度第1四半期に、自己投資部門で394億円の税引前損失を出した。ファンドが保有するすかいらーく株の評価損が少なからず含まれているもようだ。
かねて横川氏は、MBO後の経営改善には5年程度の期間を要すると明言していた。だが、想定どおりに改革が進まない状況を受け、ファンドの不満は高まっていた。今年1月には、副社長以下5人の取締役を派遣。創業者の茅野亮元社長(現最高顧問)が代表取締役を務める会社を食材の仕入れ窓口としていたが、この取引も昨年末で打ち切った。創業家排除は静かに進んでいた。「ファンドは横川氏の改革実行力とスピードを評価していないようだ」(関係者)との声が強まっていた。
横川氏の退任と合わせ、ファンド側はすかいらーく常務執行役で赤字子会社を再建した実績がある谷真氏の社長昇格を要求している。すかいらーくの労働組合もこの新体制を支持。後任社長を外部登用ではなく生え抜きの谷氏とするのは、ファンドが従業員に対して示した一定の配慮といえるだろう。新体制への移行は12日に開催予定の臨時株主総会で可決する方向だ。
ただ、ファンドの意向で刷新が一方的に進むわけでもない。MBOスキームに1100億円の融資を行ったみずほ銀行など、銀行団の意向がカギを握っている。銀行団は融資契約として、すかいらーくの経営陣が銀行団の了承を得ずに交代した場合、債務の一括返済を迫れる条項を盛り込んでいるようだ。再建には相当額の出資が不可欠との認識も持っている。
これを背景にした横川氏の動きが、長年の取引先であるサントリーに行った数百億円規模の出資要請。自身の続投に一縷(いちる)の望みを懸けたものだ。だが、4日に行われたサントリーの中間決算説明会で、千地耕造取締役財経本部長は「すかいらーくの取締役会、株主、銀行団の考えが大前提。(検討には)それ相応の期間が必要」と答えた。差し迫った臨時株主総会までにサントリーの意向を取り付け、具体的な計画をまとめ上げるのは難しい情勢だ。また、すかいらーく取締役会の過半数はファンド出身者が占める。もはや横川氏の意向だけでサントリーの増資案件は押し通せない。
融資契約に縛りがある以上、ファンド側も銀行団の意向を無視して、横川社長解任を押し切るメリットはない。新たな増資計画などを提示し、理解を得たうえで、臨時株主総会を迎える段取りだろう。
もっともファンドが新社長に谷氏を据えたとしても、業況が厳しいことに変わりはない。ファンドが最終目標とするすかいらーく再上場へ道のりは遠い。
(武政秀明、山本亜由子、佐藤未来 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済)
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