「公園のSL」を再び走らせた天上の元機関士 動くからこそ伝えられる鉄道技術がある

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2016年10月14日の鉄道記念日。ついにD5270が48年ぶりに動き出した。大日方氏は華々しいイベントに満足そうであったが、すでに次のステップを模索していた。それは軌道の延伸だ。ただ、大日方氏がなぜか時間不足を気にしていたのが引っかかった。

2016年10月14日、ついにD52は再び走り出した(筆者撮影)

運転披露から約1週間後、私は鳥取の若桜鉄道で車両清掃をしていた。若桜鉄道はやはり圧縮空気によるSL走行を構内で行っているほか、2015年には圧縮空気とディーゼル機関車による推進運転を併用した本線で走らせる社会実験を行った。これらも大日方氏の技術協力によるものだ。

珍しく大日方氏から電話があり、「明日山北の軌道延長可能区間の測量を行う」という。「今後もくれぐれもよろしくお願いします」とのあらまった丁寧なあいさつに違和感が残った。翌日午後3時には「無事測量を終了した」とのメールが大日方氏より届いた。測量を終えた山北から九州に向かう途上、大日方氏は交通事故で永遠の旅に旅立った。

意志を継ぐ再始動への動き

山北の大きな喪失感と窮地を救ったのは町の連携だった。山北町が鳥取県若桜町に運転維持管理支援要請を行い、若桜鉄道で運輸課長を務めていた谷口剛史氏が後継者として整備や定期展示運転を引き継ぐこととなった。谷口氏は大日方氏の弟子を自称する。谷口氏の登板を天上の氏本人が何より喜んでいるに違いあるまい。

D5270が本来の動力を使って本線走行しないことに不満な意見も聞かれるが、非力低速なSLが単線のトンネル急勾配線で運行するには多くの障壁がある。保安装置、転向設備といった設備面の問題。そして軌道負担力の問題がある。大型のSLでは軌道が破損しかねない。かといって小型のSLでは出力が小さく坂を登れない。また低速の列車を設定するとなると定期列車を間引く必要があり、利便性を悪化させる。

今年4月1日の再復活運転を実現したメンバーたち(筆者撮影)

圧縮空気という簡易手法による動態化でも全国から人は集まった。集まる題材が沿線に増えれば町にやってくる人はさらに増える。かつて東海道本線箱根越えの拠点駅として大規模機関区を有した威信を語り継ぐべく鉄道資料館の設置も準備中である。

軌道延伸の資金確保を目指す「山北町鉄道公園D52線路延伸協議会」も立ち上げられた。町には全国からふるさと納税などで保存運転のプロジェクトを支える申し出が後を絶たない。生前の大日方氏が目指した、動いてこそ注目され伝えられる技術や情報がある。そんな博物館以上の鉄道文化伝承を目指し、「鉄道の町山北」は今熱く燃えている。

前橋 栄一 東京交通短期大学講師

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まえばし えいいち / Eiichi Maebashi

鉄道総合技術研究所を経て現職。技術士(機械部門)。博物館学芸員。上級デジタルアーキビスト。

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