コモディティ高時代の世界の景気安定策とは
必要なのは需要刺激策ではなく需要抑制策である
ある中央銀行の幹部は「心配は無用。現在の中央銀行は1970年代の中央銀行と比べればはるかに自制心があるからだ」と語っていた。ただ今回は違う。各国がマクロ経済政策の制度的な改革を行ってきたにもかかわらず、コモディティ価格問題が忍び寄ってきているのである。
西欧の消費水準にあこがれて大量の労働者が国際労働力に新規参入してきたことで、安全な制限限度を超える高成長が実現した。その結果、21世紀の中葉に起こると予想されていたコモディティの資源制約が早くも起こり、世界経済に打撃を与えているのである。
読者は「どうして弾力的な市場経済がそうした資源制約に対処できないのか。価格上昇によって人々は消費を抑制すると同時に、新しい供給源を見つけ出すのではないのか」という疑問を持つかもしれない。
確かに80年代の石油価格上昇はエネルギーの供給増加をもたらした。しかし、そうしたプロセスが実際に起こるには時間がかかる。石油輸出国や中国が、世界の需要増加の3分の2を占めるまでになっている。市場の弾力性に欠ける途上国の世界の消費に占めるウエートが高まっているため、10年前よりも調整に長い時間がかかるのだ。
富裕国の消費者はエネルギー価格の上昇に対して賢明な対応をしている。たとえばニューヨーク市はこの半年間に市内に入ってくる自動車の数を5%減らしている。その結果、マンハッタンの渋滞は緩和し、最近では車で市内を一周することができるまでになっている。
しかし、ほかの都市の対応は鈍い。サンパウロやドバイ、上海のような都市では交通渋滞が緩和しているわけではない。政府の介入によって途上国の市場経済は需要増加への弾力的な対応ができないため、コモディティ価格の急騰が需要に大きな影響を及ぼしていないのである。
中央銀行は、賃金が相対的に安定していることからインフレ懸念はないと説明している。労働が稀少になり、賃金が高騰すると、経済成長は崩れ始める。しかし、現在の経済成長はこれまでとは違い、労働制約は問題となっていない。むしろ効率的な労働力は増加しているといえる。
コモディティは二次的な問題ではなく、最大の制約になっている。これが、世界経済の成長が鈍化し、新しいコモディティの供給と代替エネルギーの開発が進んで需要増加に追いつくようになるまで、コモディティ価格の上昇が続く理由である。
世界経済は深刻な危機の兆候を示している。各国政府は国際的協調を実現する方法を見いだすことができるのだろうか。今は引き締め的な金融財政政策が必要なのである。手遅れになる前に暴走列車にブレーキをかけなければならない。
ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。
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