隣家の無線LANに「ただ乗り」は、違法なのか 東京地裁で4月に無罪判決が出たが…

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「今回の事件で注目されたのは、無線LANの『ただ乗り』部分が、電波法109条に定められた『無線通信の秘密』の窃用にあたるかどうかという点です。

東京地裁は、無罪だと判断しましたが、『ただ乗り』したうえでおこなった行為が、ほかの刑罰法規に触れたということには留意する必要があります」

伊藤弁護士はこのように述べる。「ただ乗り」は「通信の秘密」の窃用にあたるのだろうか。

「憲法は『通信の秘密は、これを侵してはならない』と定めています(憲法21条2項)。これを具体化した規定として、電気通信事業法4条、電波法59条などが定められています。ここでいう『通信の秘密』には、どこまでが含まれるのかというのが、今回の論点です。

『通信の秘密』を保護する理由は、プライバシーその他の私生活の自由を保障し、自由なコミュニケーションを確保することにあります。

『通信の秘密』には、通信の内容(電話でいえば会話の内容であったり、インターネット通信でいえば、送受信されているデータの内容)だけを指すものではなく、通信の存在も対象に含まれるとされています。

たとえば、電話料金の請求書に記載される情報の(1)通信当事者の氏名等、(2)通信の日時、(3)場所、(4)回数なども通信の秘密に含まれるとした裁判例があります(東京地裁平成14年4月30日判決。ただし、電気通信事業法の事件)」

総務省が「違法の場合も」と主張する根拠

今回の事件では、暗号鍵が『無線通信の秘密』にあたるとして起訴されたようですが、通信の内容ではないことはもちろんのこと、通信の内容を知るための手段・方法にすぎないから対象ではないと判断されたようです。

一方、総務省は、暗号鍵を調べるためにおこなわれるARPパケットの傍受行為が、『通信の秘密』の対象になると主張しています。しかし、相手方ではなく、アクセスポイントと端末機器との間で行われる通信が「通信の秘密」の対象になるかというと、疑問もあります。

総務省は、法律への当てはめや構成を工夫することによって無線LANの『ただ乗り』を電波法違反にあたると考えているようです。しかし、刑罰法規の明確化のためにも、一定の行為類型を特定したうえで個別に法規制を設けることを議論すべきかと思います」

伊藤 雅浩(いとう・まさひろ)弁護士
工学修士(情報工学専攻)。アクセンチュア等の約8年間コンサルティング会社勤務を経て2008年弁護士登録。システム開発、ネットサービス等のIT関連法務を主に取り扱っている。経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」研究会メンバー。
事務所名:弁護士法人内田・鮫島法律事務所

 

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