戒厳令のミンダナオで起きている本当のこと 和平実現に向けてドゥテルテ比政権の正念場
ミンダナオのイスラム勢力を十把ひとからげに語るわけにはいかない。今回の事件を引き起こしたのは、MILFなどの“主流派”ではなく、和平プロセスに乗れず、それに反発する不満分子といえる。
ドゥテルテ大統領が言明したように、ISが組織として浸透しているかどうかは不明だが、スールー諸島のアブ・サヤフの拠点を政府軍が制圧した際、ISの黒い旗らしきものが見つかった例もある。バンサモロを含めて、東南アジアのイスラム教徒は留学や出稼ぎで中東との関係が深く、原理主義的あるいは過激な思想に共鳴する者がいても何ら不思議ではない。
欧州で最近起きたテロ事件では、ISが“後付け”で犯行声明を出したと思われる例もあるが、たとえ直接の命令系統がなくても、イスラム過激思想に感化されることを含めて浸透と定義するのであれば、マウテ兄弟のように、フィリピンにも確実に浸透しているとみなすしかない。
和平プロセスは正念場にある
MILF幹部のひとりは、筆者のインタビューに「和平プロセスが思うように進まない現状に失望し、過激な思想にかぶれてわれわれの下から離れていく若者がいることを心配している。それも無教養な乱暴者ではなく、比較的裕福な家庭で育ち、高等教育を受けた者が少なくない。和平がこれ以上停滞すると、こうした動きを抑えきれなくなる」と吐露した。
9.11米同時多発テロ事件(2001年)の首謀者で、後に米軍に殺害されたウサマ・ビンラディンがサウジアラビアの財閥出身だったことを考えても、貧困ゆえにテロ組織に加わるという図式は当てはまらない。
ミンダナオ和平プロセスは、イスラム主導のバンサモロ自治政府樹立の前提となる重要な法案審議が7月、フィリピン議会(上下院)で始まる予定だ。フィリピン史上初めてミンダナオ出身の大統領となったドゥテルテ大統領は、8割前後の高い支持率を背景に「(自らの任期の)2022年までにミンダナオ最終和平を必ず実現する」と公約している。今回の戒厳令布告には人権擁護の観点から異論はあるが、大統領の“本気度”の表れと見ることもできるだろう。
ドゥテルテ大統領にとっても、イスラム主流派にとっても、そして日本を含めて和平プロセスを支援する国際社会にとっても、大きな正念場を迎えている。
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