戒厳令のミンダナオで起きている本当のこと 和平実現に向けてドゥテルテ比政権の正念場

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マラウィ近郊のラナオ湖畔に立つ歴史あるモスク(筆者撮影)

筆者はマラウィを何度か訪れたことがある。美しいラナオ湖畔に位置する人口20万人の同市は、バンサモロ地域の中でもイスラム色が濃厚な町だ。市街戦の最中、住民2万人が逃げ場を失い、マウテに狙撃されるのを恐れて家に隠れながら、食糧などの人道支援を受けている。

30日の発表によると死者は104人にのぼる(一般市民19人、政府軍・警察20人、マウテ戦闘員65人)。同グループはマウテ兄弟を中心とする100人程度の地方集団にすぎないが、昨年後半から南ラナオ州で活動を活発化したほか、昨年9月にドゥテルテ大統領の地元ミンダナオ島ダバオの夜市で15人が死亡した爆弾テロ事件などへの関与が疑われている。

イスラム勢力の中の不満分子

ミンダナオ島のイスラム勢力全体を混同したり、「内戦状態」としたりする記事を見掛けるが、正確ではない。全島に戒厳令が敷かれたとはいえ、戦闘は局所的なものにすぎず、大半の地域では政府軍・国家警察の検問が強化された程度で、市民生活は通常どおりである。

ミンダナオ紛争の経緯と和平プロセスについては「日本が貢献した『イスラム紛争』終結の舞台裏」をご参照いただくとして、ミンダナオ島のイスラム勢力について、誤解を招かないよう丁寧に説明しておきたい。

ベニグノ・アキノ前政権時代の2014年3月、政府と包括和平合意を結んだイスラム最大勢力が「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)であり、兵力は1万1000人程度とされる。MILFの前身で1970年代から武装闘争を主導した「モロ民族解放戦線」(MNLF)は、政治的・軍事的に弱体化しているが、一部派閥を除いてMILFと連携して和平プロセスを推進している。

これとは別に治安を脅かしているのは、1990年代にMNLFから分派したアブ・サヤフ、2010年にMILFから脱退した「バンサモロ・イスラム自由戦士」(BIFF)、あるいはマウテのような地方集団である。

アブ・サヤフは、かつて国際テロ組織「アルカイダ」の支援を受けていたとされ、116人が死亡したマニラ湾のフェリー爆破事件(2004年2月)などを引き起こした。現在は推計200~300人に縮小したが、ISへの忠誠を“自称”しつつ、カナダ人やドイツ人の誘拐・殺害、インドネシア人船員誘拐などの海賊・テロ行為を行っている。マウテ兄弟は中東でイスラム神学を学び、原理主義的な思想をミンダナオに持ち帰ったといわれ、アブ・サヤフに急接近しているとして治安当局が警戒していた。

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