47歳難病男性が「障害者手帳」を熱望する事情 難病が原因で転職のたびに条件が悪化した

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障害者の雇用をめぐっては、障害者雇用促進法で企業に対し、労働者の2%に当たる障害者を雇用することが義務づけられている。法定雇用率を達成している割合は大企業のほうが高く、ハローワークのある相談員は「一般窓口に比べ、障害者などを対象にした窓口“専門援助部門”のほうがいわゆる有名企業の求人が集まりやすく、賃金や福利厚生面で条件のよい仕事を紹介しやすいのは確かです」と言う。

長時間労働や低賃金に、体力的・家計的に耐え兼ねて転職するものの、その先にあるのはさらにろくでもない会社ばかり――。「ブラックからブラックへと流され、落とされていく感じ」と嘆くマモルさんはこの20年間、そんな悪循環から逃れられずにいる。

印刷会社の営業社員だったときは、顧客の都合に合わせ、商談や打ち合わせは夕方から深夜にかけて集中したが、月収は約25万円。「残業代も深夜割増手当もほとんどつきませんでした」。塾講師として働いていたときも残業代はゼロ。社会保険への加入義務のある法人だったが、厚生年金や健康保険などは未加入だった。

外資系保険会社では社員と変わらない働かされ方なのに、雇用形態は個人事業主。完全歩合制で、辞める直前の月収は6万円だった。ある検索大手企業の関連会社でもノルマが厳しく、暴言、暴力こそなかったが連日、「もっと単価を上げてください」「できないのは君の能力のせいでしょう」と言われ、真綿で首を絞められるように退職へと追い込まれた。

ある同族経営の会社では、社長がエレベーターから降りてくるたびに社員が拍手で出迎えるという意味不明の習慣があった。お辞儀する社員らの間を歩いていく社長を見送りながら、「ここは北朝鮮かと思いました」と言う。この会社には社員はエレベーターを使ってはいけないとの「規則」まであり、体力的にもたなかった。

現在、勤めている学習塾も、パソコン関係の親会社が税金対策の一環として新たに発足させた一部門だという。正社員とはいえ、学習塾部門が廃止されれば解雇される可能性が高い。何としても採算を上げなければと、休日返上で営業のためのビラ配りに奔走している。

マモルさんが目の当たりにしてきた労働現場は、無法地帯そのものだ。政府は、残業上限「月100時間」をめぐって賛否もある「働き方改革」を進めているが、彼にしてみれば、そんなことより「今そこにある不正」を正してくれと、叫び出したい気持ちである。

最終面接通過後の健康診断で「不合格」

マモルさんが絶望したのは、ある会社を、最終面接を通過した後の健康診断で落とされたときだ。面接官たちの反応はよかったから、原因は健診結果にあったとしか思えないという。「僕にはハンデがあるんだと痛感しました。(就職活動において)対等な競争ができないのです。それなのに、制度も法律も助けてはくれない」。

身体障害者手帳の交付基準について東京都福祉保健局は「具体的な障害の程度や、生活への支障を見て判断している」とし、再生不良性貧血だからといって除外はしていないという。が、実際に窓口で交付業務に就いているある担当者は「再生不良性貧血の方には原則、手帳は交付していない」と打ち明けるので、マモルさんの思い込みとは言えないようだ。

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