荒波直撃の印刷業界 挑戦続く“脱紙作戦”
今春、東京ビッグサイトで開催された「ダイレクトマーケティングEXPO」。東証2部上場の業界中堅、三浦印刷は「新発想」と題して、従来の紙とインキによる印刷のイメージからは想像もつかない新サービスを発表した。
商業施設を総合支援 周辺ニーズを事業化
その一つが「ルックモール」。ショッピングセンターなど商業施設に入る各店舗の売り上げ状況を、パソコン上でフロアごとに色別で表示するシステムだ。北井誠二・マルチメディア部長は「ユーザーが店舗の経営状況を即座に把握できる」と胸を張る。加えて、チラシなどの宣伝効果を測定できる独自のQRコードも発表。一連のサービスにより、商業施設の集客や運営をトータルで支援するビジネスを目指している。
従来、チラシなどの印刷受注は、「いかに早く安く刷れるかの体力勝負」(北井部長)だった。しかし顧客の要望をたどっていくと、その周辺にもニーズはあった。北井部長は「ルックモールなど周辺サービスを受注できれば、チラシ、パンフレットなど従来の印刷物も付随して受注できる」と相乗効果に期待を寄せる。
印刷とは懸け離れた事業に経営の軸足を移す企業も現れている。
東証1部の廣済堂。印刷事業を柱とする同社はITや出版、地方での求人広告などを幅広く手掛けていたが、今年4月から首都圏での求人や人材紹介事業を強化している。既存の印刷事業が伸び悩む中、今後の成長戦略の柱として目をつけた。人材紹介では個別のキャリア相談や面接のアドバイスなど、専門会社と変わらないサービスを展開。従来の求人広告から紹介や研修にも手を広げ、「既存の印刷事業の落ち込みをカバーする利益を出したい」(枝本明常務)と意気込む。
印刷業界は、大日本印刷と凸版印刷の2強によるガリバー型寡占の下に数社の準大手・中堅が位置し、その下に圧倒的多数の中小零細がひしめく構図。市場規模は年々縮小。経済産業省の工業統計表によると、印刷産業の総出荷額は1997年の8兆8700億円から9年連続でマイナス傾向にある。
市場縮小の要因としてよく挙がるのが、インターネットや携帯電話の普及に伴うペーパーレス化だ。しかし、実際には、印刷物に使用される平版インキや紙の出荷量は年々増加している。雑誌など出版物向けの需要が落ち込む一方、フリーペーパーなど宣伝広告用の印刷物が伸びているためだ。社会全体では印刷物の数量が落ちているわけではなく、一概にペーパーレス化とは言えない状況にある。
では、印刷産業の市場規模が縮小しているのは、なぜか。その最大の要因は「技術変化にある」と、日本印刷技術協会の山内亮一専務理事は解説する。
「15年前なら印刷会社は、原稿の文字入力、写真の色分解など前工程で多くの仕事があった。でも、いまやそれらの多くはパソコンでできる。結果、これまで顧客に請求できた前工程の収入の多くが消えた」
印刷会社には別の荒波も押し寄せる。供給力過剰による価格下落だ。近年、印刷機の生産能力は著しく向上。結果として、印刷各社の機械の供給能力が印刷物需要を上回り、過当競争とそれによる価格下落を招いた。さらに昨年からは紙の値上がりも印刷業界を直撃し始めた。