マルハニチロ子会社も関与−−国産ウナギ偽装と水産業界の「闇」

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全国で相次ぐ偽装発覚 「里帰りウナギ」問題も

実は昨年秋以来、ウナギ偽装は次々と明るみに出ている。農水省の調査がきっかけで公表に至った不正事案は11件。東海澱粉(静岡市)のケースでは元社員2人が5月末に逮捕された(のちに起訴)。国産品偽装は数年前から業界内でささやかれてきた公然の秘密。業界団体の日本養鰻漁業協同組合連合会は5年前に分裂騒ぎに見舞われたが、偽装問題がその遠因の一つともされた。

手口として最近目立つのは「里帰りウナギ」だ。国内で一定期間飼養した稚魚を、気候が温暖でコストも安い台湾に輸出、そこで成長させ、日本に逆輸入するのである。この際、日本での飼養期間のほうが長く、生産履歴の証拠がしっかり整っていれば、国産品と表示できる。

しかし、実態はずさんそのものだ。6月中旬にさいたま市が公表したケースでは、日本から輸出した稚魚が約18万匹だったのに対し、なぜか逆輸入した成魚が約26万匹にも上っていた。産地証明を出していたさいたま市の貿易業者は愛知県の協同組合から依頼を受けていたが、この業者は昨年10月にも宮崎県の問屋に対し同様の証明を交付していたとして厳重注意を受けている。

偽装が横行するのは、国産品と輸入品の価格差が蒲焼きで2~3倍にも達し、多少の危険を冒してもうまみが大きいからだ。また、中国産蒲焼きをめぐっては、2003年以来、2年ごとに合成抗菌剤が検出される騒ぎが発生。人体への影響はないものの、消費者が敬遠する風潮が広がり、一部業者は在庫の滞留に頭を悩ませているとされる。

実は昨年、魚秀の親会社である徳島魚市場(徳島県)の販売商品からも合成抗菌剤が検出され、同社は徳島県の指導で出荷済みの商品4トンを自主回収した。県によると、同社は「回収分以外にも風評被害による返品を懸念していた」といい、それが偽装につながった可能性もある。

親会社のトップに伝わらなかった情報

今回の事件の大きな特徴は、水産業界最大手の子会社までもが、偽装にかかわっていたことだ。マルハニチロの対応には首をひねりたくなる点もある。同社が神港魚類から産地証明偽造の報告を受けたのは、農水省公表から1週間前の6月18日。しかし、その事実は一部の者だけで“共有”され、社外に公表されることはなかった。神港魚類は翌日には取引業者と協力し、出荷済み商品の回収作業をひそかに始めている。

続く25日のマルハニチロの株主総会では偽装に関する質問が出たが、幹部の多くは寝耳に水。五十嵐勇二社長も「調査が入ったのは事実だが、詳細は把握していない」と答えるにとどまった。グループのコンプライアンスを担当する法務審査部は「不祥事防止に向け、社員への啓蒙活動を行っている」と説明する。だが、肝心の経営陣に情報が伝わらない企業体質ではどうしようもない。昨年8月にも別の子会社が賞味期限切れのネギトロ原料を販売したことが発覚するなどしたばかりだ。

ウナギに限らず水産業界の産地偽装は後を絶たない。マルハニチロが筆頭株主で、過去に神港魚類との統合交渉が不調に終わった水産物卸売大手OUGホールディングスでは、今年3月にフグと養殖ブリの産地偽装が明らかになっている。舞台となった子会社うおいち(大阪市)では6月26日、社長(当時)が飛び降り自殺を遂げた。病気を苦にしたものとみられるが、翌日の株主総会を控え、産地偽装問題の質問について神経質になっていたともされる。

(高橋篤史、前田佳子 =週刊東洋経済)

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