不登校「負の連鎖」を引き起こす原因は明白だ 経済力がない家ほど、子だくさんとなる現実

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

 その後も職場の人間関係が原因で転職を繰り返し、その都度、給料も労働条件も悪くなっていった。しかも、子どもは相次いで生まれ、生活は一層苦しくなる。そこで、母は、昼はスーパーのレジ打ち、夜はコンビニの深夜勤務とダブルワークで働くようになった。

これまで、子どもたちの唯一の保護者であった母が、働きに出て家にいない時間が多くなったことから、子どもたちの不登校が次々と始まる。母は、深夜勤務明けの朝5時ころ帰宅し、夫や子どもの朝食を作って送り出し、家事をしたり睡眠を取ったりしながら午後3時ころまで家にいる。その後スーパーで働き、午後9時過ぎに帰宅。そして、午後11時半頃近所のコンビニに向かうという生活である。時給の高い深夜のコンビニ勤務は、家計を考えるとどうしても欠かせないと、現在も週5日、このシフトで仕事をしている。平日の仕事が休みの日は、くたくたになって泥のように寝ているという。このような生活をもう5年以上も続けている母の頑張りは、驚嘆ものだ。しかし、学校に通う子どもが家にいる時間と、母が家にいられる時間がほぼすれ違いになっている。母が家にいる時間帯に、母と接したいと考える子どもたちが学校に行かずに、家で母にまとわりついているというのが、この家庭の常態になってしまったのである。

典型的なヤンキーの風貌や言動の裏には…

現在、上の2人は同じ「教育困難校」に通う高校生である。限られた在宅時間の中で母は幼くて手のかかる弟や妹にどうしても目を向けるので、彼らの愛情渇望は学校に行かずに家にいても、満たされなかったようだ。そこで、中学生の頃の彼らは学校には行かないものの、夜になると地元の仲間とつるんで悪さをし、何度も補導された。高校生になって、アルバイトを始め、少し落ち着いたと周囲から言われているが、典型的なヤンキーの風貌や言動の裏に、愛情の飢餓感と寂しさが見え隠れする。しかし、学校では禁止されている2輪バイク免許の無断取得や飲酒・喫煙、さらに恐喝などでたびたび生徒指導の懲戒を受けている2人が、無事に卒業できるかといえば、それは悲観的に考えざるをえない。

下の3人も、中学校、小学校でそれぞれ不登校になっている。兄妹の仲は決してよくない。限られた母の愛情を取り合うライバルだからだろう。母は、心配しながらも、何もできないとあきらめている感がある。そして、父は相変わらず帰宅後は寝るまでゲームに熱中している。時々、「俺は嫌でも会社に行っているのに、なんで学校に行かないんだ!」と感情を爆発させることはあっても、子どもと真剣にかかわろうとする気持ちはいまだまったくみられない。

この家庭は、居住市の就学援助は受けているが、生活保護は受給しておらず、母の努力でなんとか踏みとどまっている。読者の中には、この家族にあきれる思いを持たれる人も多いだろう。親としての自覚と責任感がまったく感じられない父。父を少しも変えられない母。自分たちの経済力を顧みず無計画に子どもを作ること。確かに、彼らには責められる点は多々ある。

確実に言えることは、小学校から不登校を続け、学力も低く、家族以外の人とのコミュニケーション能力を鍛える機会も持たなかった5人の子どもたちが、将来、経済的に自立できるような仕事に就けるか、非常に疑問だということだ。両親がそろっているかいないか、子どもの数が多いか少ないかにかかわらず、親との時間を共有したいがために不登校になっている子どもたちは、全国に驚くほど多数存在する。そのような子どもが増加する理由は何か、社会にも問題はないのか、あらためて考えてみる必要があると思う。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事