ビジネスでも、教科書どおりのやり方をすれば、一定ラインの成果を上げることができるだろう。しかし、さらに上を目指すとなると、より多くの工夫が必要だ。ときには、常識を疑うことも戦略につながるかもしれない。
川内の“挑戦”も、日本マラソン界の“セオリー”と懸け離れている。昨年度は1年間で11回のフルマラソンに出場。ほかのトップ選手が年間1~2レースほどということを考えると規格外の多さだ。かといって、出場数を追うために、それぞれの試合で力をセーブしているわけではなく、昨年度は実に7度の優勝を飾っている。
陸上関係者から出場レースの多さを指摘されることもあるが、川内は意に介さない。試合を「究極のトレーニング」と位置づけて、普段の練習ではできないことを、レースで求めている。また、試合数が多くても、それぞれのレースでテーマを決めて臨み、本当に狙うべき試合に向けて、大きな波をつくるように、ピーキングを合わせている。これも川内流のマネジメントだろう。
「どういう練習をすれば効果的なのか。これまでの常識にとらわれずに、いろんなトレーニングに挑戦することで、可能性が広がっていくと思っています」
当初は“異端児”という目で見られていたが、最近は実業団チームの関係者も川内の実力と、大胆な取り組みを認めざるをえなくなった。20代前半の若手選手は公務員ランナーに敵意をむき出しにして、名門チームの指揮官たちも川内から学んでいる。
26歳にして、フルマラソンに23レースも出場している川内は、その“経験”を武器に、夏のモスクワ世界選手権で勝負に出る。
「モスクワでの目標は『6位入賞』を果たすことです。市民ランナー的なやり方でも世界で通用するということを見せたいですし、また自分自身の『あきらめない走り』を多くの人に見てもらいたいと思っています」
当初は「8位入賞」という目標を掲げていたが、テグ世界選手権で7位に入った堀端宏行(旭化成)、ロンドン五輪6位の中本健太郎(安川電機)の順位を意識。モスクワでのターゲットを「6位入賞」に引き上げた。これも実業団選手には負けたくない、という気持ちの表れだろう。
川内の好きな言葉は「現状打破」。“常識”を突き破ることが、新たな可能性を生み出す原動力となっている。ビジネスでもそれは同じだろう。皆ができないと思うことを実現するには、誰もやらないことへのチャレンジが欠かせない。川内は自身が走る姿で、強烈なメッセージを伝えている。やり方次第で、誰にでもチャンスはあるのだ──と。(=敬称略=)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら