「第一生命」株式会社化・上場後のシナリオを読む 急浮上する損保ジャパンとの経営統合説

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 第一生命も財務内容からいってほぼ大同並みの構成比になるとみられるが、それでも1株以上の株式を受け取れる契約者は310万人だけ。320万人は端株のみで、何ももらえず切り捨てられる契約者はおよそ220万人にも達するとみられる。

相互会社の社員権の中には議決権のような共益権も含まれているとされる。このため欧米の相互会社生保の株式会社転換では、何も割り当てがないと契約者の理解を得られないとして、全契約者に一定の株式を割り当て、それに将来の純資産形成への貢献見込みも考慮して算定した寄与分に応じた株式を上積みして割り当てる、といった手法がとられてきた。01年の米国最大の生保、プルデンシャルの株式会社化では契約内容、契約数にかかわらず、最低8株が与えられ、一部の契約者には保障内容の上積み措置まで行われたという。しかし日本では、1株当たりの純資産が5万円以上になるよう規定され、大量の株主が誕生すれば「それこそ株式事務が膨大になってコストがかさむ」(住友生命幹部)。欧米のような転換手法は事実上、採用困難な情勢だ。

端株のみの契約者や割り当てゼロの契約者は、株式会社への転換後も不利益を被るおそれがある。

第一生命の成長シナリオは大型のM&Aしかない?

相互会社の基本理念は相互扶助。利益が上がればそれは、必要となる内部留保を除き、配当という形で契約者に還元されるのが原則だ。だが、株式会社化すれば利益は契約者に代わってオーナーとなる株主にも還元しなければならない。既契約者からみれば、その分、配当原資が目減りする可能性があるわけで、とりわけ保険料を支払っていない非契約者株主への配当は納得いかないところだろう。最大手の日本生命保険が「できるだけ多くの配当を契約者に還元するうえで相互会社が最もふさわしい」(筒井義信常務)として、株式会社化に消極的な姿勢を示している理由の一つは、それにより大量発生する"非株主契約者"からの不満に配慮する意図もあるとされる。

その点からすると、第一生命がそれでもなお株式会社化を説くのであれば、株主配当を実施しても現行の契約者配当水準を維持できるだけの原資を生み出す利益成長シナリオを明示する必要があろう。そしてそこからおのずと導かれる結論は一つ。「狙いは大型のM&A」(金融筋)だ。

「成長市場であるアジアに重点投資したい」。第一生命の斎藤勝利社長は、株式会社化の検討を進めていくにあたってこう語り、海外でのM&Aを積極化させる意向をにじませている。だがそれと株式会社化の絶対的必要性とは直接リンクしない。現に第一生命自身、小規模とはいえ、すでにベトナム生保を買収(=07年1月)。インド、中国などでは現地企業と合弁生保を設立する計画にも乗り出している。

この場合、同業他社に対するM&Aも可能性は低いだろう。国内大手は銀行グループによる色分けが進んでいるうえ、合併した明治安田のように相互会社のままでの再編も可能だからだ。さらに証券、銀行、投資顧問といった"異業態"も、将来的にはM&Aの対象として視野に入ってくるにせよ、短期的なスパンでは考えにくい。となると、ターゲットは商品の相互補完などが期待できる親密損保--それも上場会社でなければ、あえて株式会社化する必然性はないということになる。

「もはや(同じみずほ系列に連なり、00年から包括提携している)損保ジャパンしかないではないか」。冒頭に登場した生保首脳は自信たっぷりに言い切るが、はたして……。

小山 守 ジャーナリスト
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