「おらが町投信」批判は買う人には関係のない話−−澤上篤人 さわかみ投信代表取締役

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「おらが町投信」批判は買う人には関係のない話−−澤上篤人 さわかみ投信代表取締役

今年4月に直販グループに加わった3つの「おらが町投信」に対しては、投信会社としての事業の先行きを疑問視するなど、批判的な見方も少なくない。澤上篤人氏はこれにどう答えるのか。

--ありがとう投信を兄貴分として、ここに来て、おらが町投信も加わったことで、独立系の直販の投資信託に対する認知度も高まっています。ただ、当初の運用資金が小さくスタートしたことで、「理念に現実が追いついていない」「ビジネスとして、先行き大丈夫か」といった見方も出ているようです。

投信も他のビジネスと同じです。世の中が必要とするものを提供できれば続きます。小さく生まれたから心配と思うのはその人の勝手です。ただ、大事なことは、どれだけ強い思いをもっているかということです。ビジネスの成否はすべて情熱で決まります。ましてや、今回のケースでは、新たに会社を立ち上げたのですから。その思いの強さが問われ続けるのです。その情熱が投資家に伝われば、「こういう投信が欲しかった」「長期投資の仲間に入れて欲しい」という声が出てきます。そういう声を集めて、そういう声に新たな声が集まってきて徐々に大きく成長していきます。

--ありがとう投信やおらが町投信に対しては、ファンドの中にファンドを組み入れるファンド・オブ・ファンズ(FOF)ということで、手数料が二重にかかる、また組み入れファンドにそれほど違いがないといった批判もあります。
 
直販ですので販売手数料はかかりません。手数料が二重にかかるという批判は、信託報酬に対するものでしょう。まず、ファンドを組み入れる側の投信については、手数料は低いほうがいいでしょうし、そうなっているでしょう。中に入れる投信については、信託報酬は勘案されたあとの基準価額を見て投資判断して組み入れているのですから、二重取りとわざわざ言う必要はありません。お客様が見ていくべき点はFOFの基準価額とそのFOFの信託報酬率です。組み入れているすべてのファンドの信託報酬が実質的にかさんでいるといっても、それらに投資しているFOFの基準価額が伸びていれば資産は成長しているということですから。

また、組み入れているファンドにあまり違いがないと、マスコミを含めて騒ぐ人もいるようですが、買う人にとっては関係のない話ですね。購入する投資家は、ありがとう投信やおらが町投信の理念に共感できて、安心して財産づくりができていればそれでいいだけの話ですから。おらが町投信からは、「地方の活性化」といったメッセージがどんどん発信されるでしょう。そうすればますます注目が高まるでしょうね。

--お話をうかがっていると、これまで聞いていた投信選びとは、まったく異なった観点からの投信との付き合い方という気がします。

数値やデータを使って頭で考えたり、もうけようと思ったり、そういった投信選びにはまってしまうとそれは大変です。投資信託も10年、20年、場合によっては50年といった長い付き合いになるのですから、結婚相手を決めるのと同じです。いくら背が高い、おカネを持っている、学歴が立派といっても、それが結婚相手としてふさわしいかどうかは別でしょう? やっぱり一緒にいて安心ができるとか、誠実だとか、そういうことが大事ですね。結婚相手と同じように、投信もそういう安心感や信頼感で結びついた投資家と運用者が一緒になって運用していくことでゆったり、どっしりとした長期の投資ができるのです。

これは蛇足ですが、実は、最初に信託報酬を決めるとき、本当に1%にするかどうかずいぶん悩みました。投資助言では、成功しないと報酬がない成功報酬体系でした。結果を出すことによって、報酬をいただくということが当たり前のことですから。投信でも、別に3%とか5%とかにしても財産づくりのお手伝いはできるのではないかと思いました。それ以上の結果が出ればいいわけですから。でも、一般の生活者の方の長期の財産づくりをお手伝いするとなると、やっぱりコストは安いほうがいい。長期保有型の投信は、生活者の長期的な財産づくりのお役に立てるよう、数値目標を意識するのではなく限りなく自然体の本格的な運用をやっていこうと思いました。
(聞き手 水落隆博 撮影:梅谷秀司)


澤上 篤人 さわかみ・あつと
1947年、名古屋市生まれ。70年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルでアナリスト兼ファンドアドバイザー。73年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。80年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年、さわかみ投資顧問を設立。99年に日本初の独立系投資信託会社、さわかみ投信を設立。

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