トヨタ、引き締めへ「最悪シナリオ」を発表 今期3割もの大幅減益計画を発表

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トヨタ大幅減益「3割」が示す社内外への号令

大手自動車メーカーの決算が出そろった。2008年3月期は8社中7社が増益を記録。それが一転、09年3月期は全社が営業減益で、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車はともに、約3割の大幅減益になる見通しだ。

特に注目されたのが日本最大の製造業トヨタである。前期の過去最高益から、今期は売上高25兆円(5%減)・営業利益1・6兆円(30%減)と、9年ぶりの減収減益予想へ様変わり。その“異変”は7期ぶりの減益に転じる日本企業全体の不振を象徴する。

何せ今期は、円高・原材料高・北米市場不振の「三重苦」。強気で鳴らす日産のカルロス・ゴーン社長ですら、「あらゆる要素が後ろ向き」と嘆く。トヨタの場合、為替は1ドル=100円、1ユーロ=155円を想定するが、円高だけで6900億円ものマイナス要因になる。鋼板は1トン10万円超と史上最高値で決着、原材料高で3千数百億円のマイナスを見込んでいる。

最大のドル箱である北米販売も、減少が避けられない。全世界では906万台(2%増)、中でもアジアは2ケタ増を見込むが、北米は6%の減少。ガソリン高に伴う大型車低迷を読み切れず、米国への巨額投資が裏目に出た格好といえる。そのため、ピックアップトラック「タンドラ」を生産するテキサスとインディアナの両工場では、とうとう減産に踏み切った。

さらに深刻なのが将来への投資だ。設備投資は1・4兆円と高水準ながら3期連続減。「無駄を見直すためで中身は変えない」(渡辺捷昭社長)とはいえ、減額は裾野が広い関連産業への打撃が大きい。また研究開発費は、何と10期ぶりの減少になる。

「最悪シナリオ」を提示

ただし、もう少し深読みするなら、3割もの大幅減益はトヨタなりの“メッセージ”とも読み取れる。

「(われわれに対しても)より厳しくなる。そう考えねばならないでしょう」--。

自動車用のマフラーをトヨタに納入するフタバ産業の小塚逸夫社長は、そう言って戸惑いを隠さない。俗に「ティア1」と称される、一次サプライヤー(部品会社)の今期業績はデンソーをはじめ、みな2割以下の減益幅に収まる見込み。下請けにとっては、原材料高などの追加負担をどちらが被るかという段階になれば、トヨタの値引き要請が一層厳しくなるのは必至だ。

社内向けメッセージはそれ以上だろう。渡辺社長は、会議の資料でカラーコピーが多いことまで引き合いに出し、今後の節約を宣言。「若い頃は鉛筆をつないで使ったもの」と強調してみせた。連結従業員数が世界で約30万人に膨らんだ今、お家芸だったかつてのコスト削減意識は緩みつつあるのかもしれない。

ある自動車メーカーの幹部もトヨタの見通しについて、「事前予想を下回る数字を出し、社内外への引き締めを図るつもりでは」と解説する。元来保守的なトヨタにとっては、あえて「最悪シナリオ」を提示してきたというわけだ。為替は現在ドル、ユーロとも円安に振れているうえ、「原材料高を上回る4000億円の原価低減の実力がある」(松島憲之・日興シティグループ証券アナリスト)。減益トレンドは変わらないものの、一定程度の“のりしろ”を含んだ数字であることは否定できない。

もっとも、トヨタを囲む環境が困難なことは、疑いようのない事実。「北米市場の問題がすぐ解決するとは思えない」(吉田達生・UBS証券アナリスト)。自らの予想を覆すだけの結果を挙げるには、拡張し過ぎた生産体制や提携関係を含め、経営資源の配分の見直しも必要だ。来期の回復につなげられるかは、この1年間、厳しい姿勢を貫けるかどうかにかかる。

(撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

大野 和幸 東洋経済 記者

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おおの かずゆき / Kazuyuki Ohno

ITや金融、自動車、エネルギーなどの業界を担当し、関連記事を執筆。相続や年金、介護など高齢化社会に関するテーマでも、広く編集を手掛ける。

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