つらい不妊治療の「やめどき」を考える

6組に1組の夫婦が経験

冒頭の益子さんの場合、「45歳まで」と最初に決めていたことが、次の人生への足掛かりとなった。治療をやめて2カ月後、湘南に家を衝動買い。現役を引退した夫とともに、自転車店を開く夢に向かって動き出すことができたという。

妊娠はゴールじゃない

「不妊治療は、気が済むまでやり通せばいいと思います。でも、やめどきは決めておいたほうがいい。妊娠はゴールではなく、スタート。年齢も考えて踏ん切りをつけて、あとの人生を楽しんでほしい」(益子さん)

不妊治療は、夫婦で価値観を共有することが重要だ。30歳で結婚し、子どもがいないまま年を重ねたマーケティングライターの牛窪恵さん(48)は、37歳のとき、夫と子どもについてとことん話し合った。夫は言った。

「『子どもがいれば仕事の幅が広がる』というのは君のエゴ。そんな気持ちだったら、僕は子づくりに協力しない」

その言葉が腑に落ちて、本格的な子づくりをしない道を選択したという。

「子どもがいなくても、ペットを愛したり、地域の子どもの世話をしたりするなど、別の生きがいは見つかる。私の場合は、部下や研修先の新入社員がかわいくて仕方がありません。子どもがいても、巣立ってしまえば、最後は夫婦2人。よく話し、夫婦の関係を充実させることこそ、人生で重要だと思います」

そのことを体現しているのは、漫画家の堀田あきおさん(60)、かよさん(54)夫妻だ。あきおさん35歳、かよさん29歳で結婚。直後、かよさんに子宮内膜症が見つかり、治療を受けながら「早めに子どもをつくろう」と決意。あきおさんが、かよさんの検査や入院に同伴する生活が始まった。あきおさんは、精子が熱に弱いと聞くと、下半身だけ外に出して湯船につかり、漢方薬も一緒に飲んだ。

「僕は産めないけど、気持ちだけはずっと寄り添っていました」(あきおさん)

かよさんは一度、妊娠したが流産。様々な病院を転々とした末に、治療をやめた。当時38歳。一緒にがんばってきたから、これからは2人で仲良く生きていけるという確信があった。だが、本当のきっかけは事務的かつ高圧的な医師の態度に耐えられなくなったことだ。指定された日に診察を受けると、

「今日はなんで来たんですか? 体温が上がってからではやることがないので、次は生理が終わったら来てください」

冷たい言葉に、気持ちがぷつりと切れたという。

「医師に傷つけられる人は多い。患者の気持ちを理解する医師が増えてほしい」

と、かよさん。不妊治療の継続に悩む人たちにエールを送る。

「不妊治療は何度でも再開できるし、やめることもできる。続けた後悔も、やめた後悔も納得も、人生に深みを与えてくれます」

(編集部・古田真梨子)

※AERA 2016年8月8日号

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