利益倍増!LCC「ピーチ」はどうして強いのか 井上慎一CEOを直撃、「まだまだできる」

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――直接客から要望を聞いて、事業に生かすこともあるのか?

関空―成田線は、ある日おばちゃんから「飛ばしてくれ」と言われて。なぜかと聞いたら、ディズニーランドに行きたいと。主婦だから泊まりは難しい。朝に行って夜に帰れる、片道5000円の便なら乗りますと言われた。とりあえずやってみたら、搭乗率が高い路線のひとつになった。

お客さんはいいことも悪いこともはっきりと言ってくれるので、何が求められているかがわかる。きちんと飛ぶことと、お手頃な運賃。これが最低条件。運航品質にこだわったのは間違いじゃなかった。

――運航品質で懸念材料なのが、定時出発率の低さ。昨年度は80.7%。大半の航空会社は90%前後を維持しているが。

いいとは思っていない。裏腹にあるのが就航率(便が出発できた率)で、これは99.3%と日本でもトップクラス。

いのうえ・しんいち●1958年生まれ。1982年早稲田大学法学部卒業後、三菱重工業入社。1990年全日本空輸入社。2011年2月、ピーチ・アビエーションの前身となるA&Fアビエーションに転じ、同年5月より現職

コストを下げるためには、機材の稼働率を上げる必要がある。ただ、ちょっとしたトラブルが起こるとすぐに遅れが出てしまう。遅れても欠航は避け、必ず飛ばす。

それでもお客さんにご迷惑をおかけしているのは間違いない。改善のために考えられることはすべてやっていきたい。

ライアン・エアーは300便以上も就航しているにもかかわらず、年間平均で定時出発率は90%前後、そして搭乗率も93%ほど。これが世界の実力だ、これを目指して頑張ろうと社内で鼓舞している。

また、ライアンは創業から20年以上も経つのに、昨年度も2ケタの増収増益で業績も好調。高収益を可能にする組織、人、文化の力があるのだろう。ライアンの元会長にピーチのアドバイザーに就いてもらっているが、話を聞くと、強いチームほど運航の基本技術がしっかりしていると感じる。奇をてらったことはやっていないんですよ。

連合よりも、自分たちでやることがある

段ボール素材のチェックイン機はディスプレーを大きくする利便性とコスト削減を両立させた結果、生まれたものだった

――段ボールのチェックイン機などと、奇をてらうことの違いは?

チェックイン機などは、お客さんの利便性を考え続けてたどり着いたところだ。一方で、安全にかかわることは大真面目にやっている。出発前の機内安全の案内を米国の女性シンガー、レディー・ガガの曲にのせてやったLCCがあった。メディアからやらないのかと聞かれたこともあったが、絶対にやらない。メリハリはちゃんとしているつもりだ。

――5月には6カ国8社のLCCが航空連合「バリューアライアンス」を設立した。ピーチは加盟していないが、こうした動きをどう見ているか。

繰り返しになるが、われわれが参考にしているのはライアン・エアーのような会社。彼らは他社との協業はやっていない。搭乗率もほぼ満席に近い状態なので、他社の力を借りて席を埋める必要がない。渡す席もないから逆に失礼になる。8社もいれば出張費など会議のためのコストがかかる。オペレーションや営業もそう。どれだけの間接コストがかかるか。

それに自社でやることは山ほどある。会議の数を半分にしたり、今と同じ時間の中で、1人で2人、3人分の仕事をできるように生産性を上げることはまだまだできる。宣伝なんかも、ネット販売が95%を占めているので、テレビや新聞に広告を出しても意味がない。「そんなことやるんだったら運賃を下げろ」と関西の皆さんには絶対に言われる。ピーチは金勘定に厳しいお客さんに支えられている。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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