耳で鉄道を味わう「音鉄」の奥深い世界とは? 駅のメロディや走行音、車内放送に個性…

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――録音データは編集するんですか?

音鉄にも列車の全区間を録音する人やダイジェストで録る人などいろんなタイプがいますが、私はたとえば発着風景の音をホームで録って、さらに車内の音を録って、編集して一つの列車のドキュメントをつくるという楽しみ方をしています。

編集は重要ですね。雑音をできるだけきれいにしたりして。ただ、走行音ってそもそも雑音なんですよね(笑)。雑音カットの機能などを使うと全て消えてしまったりします。そういう泣くに泣けない話があったりもします。

また、音は動画ほど時間を奪われません。動画を撮って編集、さらに観るとなると、同時に他のことはできなくなっちゃいますよね。でも音なら、仕事をしながらでも聞くことができます。そして、音を聞くと録音したときの情景が浮かび上がるという、自分だけの記録になるんです。

――今までの録音で一番大変だったのは何ですか。

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今までの録音で一番大変だったという「SL冬の湿原号」(写真:くまちゃん / PIXTA)

一番辛かったのは、北海道の釧網本線を走る「SL冬の湿原号」ですね。釧路に向かう列車は、蒸気機関車と客車の間にオープンデッキの車掌車を連結していて、このデッキで録音すると蒸気機関車の音を目の前で録れるんです。

でも真冬なので、体感温度はマイナス30度の世界(笑)。降りようとしたら寒さで身体が固まって動かず、さらに報道のヘリコプターが飛んでいたので、雑音が入ってしまったんです。いい音が録れなかったのはもちろんですが、一体この我慢大会は何だったのかと(笑)。

――逆に「音鉄の神様」が微笑んだラッキーな出来事は?

インドのダージリン鉄道ですね。インドの人はおしゃべり好きですが、周りの人が録音に協力してくれて、車内で一言も喋らずにいてくれたんです。これは本当に神に感謝ですね。

音鉄は気軽に楽しめる趣味

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――今一番録ってみたい音は?

今は見られないものでも良ければ、昔の都電。二重橋前を通るときに「ただ今、宮城の前を通っております」と案内したんだそうです。そして乗客全員が頭を下げる。これは完全に消えた過去ですよね。あとは東北新幹線開業前、特急列車が多数発着していた上野駅ですね。海外だと、ヨーロッパのドーム状のターミナル駅での音の録り比べをしてみたいですね。

――「音鉄」は誰でも楽しめますか。

音鉄は、探す面白さや発見の楽しみがあります。ネットなどで得た情報をもとに録音に行ってみたら、そこには思いも寄らぬ違う音があるかもしれない。音鉄を目的にした旅をしなくても、何かのついでに気になる音があったらICレコーダーのスイッチを気軽に押してみるという楽しみ方でいいと思うんです。すると、これまで見えていなかったものが見えてくると思います。

極端な話、スマートフォンでもそれなりにいい音質で取れますから、多くの人に楽しんで頂きたいなと。音で楽しむ鉄道を、もっともっと多くの人と分かちあいたいですね。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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