耳で鉄道を味わう「音鉄」の奥深い世界とは? 駅のメロディや走行音、車内放送に個性…

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名鉄揖斐線を走っていたモ770形電車(写真:ウサカズ / PIXTA)

――録音をはじめたきっかけは何ですか。

きっかけになったのは、2005年に廃止になってしまった岐阜県の名鉄揖斐線です。ここに鐘を打つタイプの古い踏切があったんですが、その音を聞いたときにえもいわれぬ寂寥感というか、ここまで物憂げで切なくなるような音色が感じられるとは思っていなくて。そしてその音が消えていっていることに気がついて、記録したいと思ったんです。

――もともと鉄道が好きだったのですか?それとも録音そのものが好きだったのでしょうか?

鉄道がもともと好きで録音も始めました。鉄道ファンは旧型車両など古いものが好きな人が多いと思いますが、そういうものはどんどん姿を消しています。すると、写真撮影の場合はこれからは何を追っかけたらいいんだろうか、10年後や20年後、自分は一体何を撮影しているんだろうかと思ったりするんですね。

でも音の世界は、横の情報交換をするようなつながりが全くないんです。雑誌などでも情報が紹介されることがなくて、長らく孤独な航海だったんですよ(笑)。逆に言えば、メジャーでない分、新しい発見の宝庫だと思います。

たとえば、駅メロディに関しては最近すごく盛んになっています。四国の伊予鉄道は社長自ら作曲していたり、西武鉄道は企業とタイアップして、新狭山では「コアラのマーチ」、高田馬場は「マルコメ」のCMメロディを導入したりしています。駅メロが一つの地域文化のアイテムとして話題になってきているんですね。

こういった動きも全国ニュースにはならないんですが、逆に情報が流れないところが趣味的には面白いところです。発見する面白さ、楽しみがあるんですね。「音鉄」はまだまだフロンティアなんです。

地元の人は気付かない「ご当地表現」

――発見の面白さがポイントですね。

片倉佳史(かたくら よしふみ)/台湾在住作家、1969年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。耳で楽しむ鉄道趣味を広めるべく、録音機材を片手に世界各地を巡っている。主な著書に「台湾鉄道の旅」「台湾に残る日本鉄道遺産」など(撮影:今井康一)

音は一期一会というか、その場その瞬間にしかないんですね。同じ車両が発着して同じメロディが流れていても環境はいつも違うので、必ずしも同じ音にはならないんです。

車内放送のご当地表現も面白いです。土地の表現は地元の人は当たり前すぎて気付かないんですよね。たとえば富山のご当地表現で「安全柵によしかからないでください」という放送があります。標準語だと「寄りかかる」ですよね。

北海道では以前はよく「おはようございました」というあいさつの放送がありました。いまも札幌駅の自動放送では「特急」と言わず「特別急行」と言っています。九州では列車の交換待ちのことを「離合待ち」と言っていたり、四国では4両編成を「4両つなぎです」と表現したりしています。まだまだ日本の中にも、その土地ならではの独自のものが存在していて、しかも地元の人は当たり前のように受け止めている。外からやってきた人には印象深い体験になります。

海外でも、たとえばタイは線路の継ぎ目がずれているんです。なので、ジョイント音は日本のような「ガタンゴトン」ではなく「タタッタタッタタン・タタッタタッタタン」となるんです。こういうのもお国柄ですね。

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