VW訴訟は「見えざる手」がスピード解決した 元FBI長官の頼みには、誰も逆らえない

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同判事とミュラー氏が最初に出会ったのは40年前という。その時、ミュラー氏はサンフランシスコの米連邦検事補だった。その後1998〜2001年に米連邦検事を務めていた際、プレイヤー判事とも親交があったという。

ブレイヤー判事は「ミュラー氏以上に、ぶれない一貫性と適切な判断、経験を持つ人は、まずいない」と説明。「顧客やVWの弁護団、米当局といった各当事者の信任を得るにはこの上なく適任だ」と付言した。同判事の見識は鋭かった。元FBI長官からの電話に、折り返さない者がいるだろうか?

実際、VWはミュラー氏に米当局との交渉経過を伝え、司法省などへのプレゼンテーションで使ったパワーポイント資料さえも渡していた。ミュラー氏はさらなる情報収集のため、VWの取締役会にも出席可能になった。

ミュラー氏は3月までに、ワシントンの自分の事務所で、VWや規制当局、弁護士による交渉の会合を主催するようになった。3月24日の最終審問に出席したミュラー氏はブレイヤー判事に先は見えたと告げた。そして原則合意が発表される今月21日までの2週間、当事者はほぼ毎日、最大14時間の会合を持ち続けた。

午前3時になっても勢ぞろい

こうした経緯はブレイヤー判事が説明したもので、ミュラー氏は自身の活動の詳細を明らかにしていない。ただ、VW側のジアフラー弁護士によれば、土曜日の午前3時になっても、当事者全員がミュラー氏の事務所に勢ぞろいしていたケースもあった。

ブレイヤー判事は、最終合意に至るまで、弁護士の全員が強行軍に付いてきてくれるよう期待している、と冗談めかして述べた。そしてもし彼らが午前3時までミュラー氏の事務所に詰めているならば、元FBI長官もまたそこにいることは間違いない。

ブレイヤー判事と同氏が抜擢した交渉の達人は、政府や数十万人の訴訟の原告たち、グローバルな企業が、事に機敏に対処出来ることを立証した。この件は、ミュラー氏が広域係属訴訟の仲裁したのは今回が初めてだったかもしれないが、同氏にとって最後の例には、決してならないだろう。

筆者のアリソン・フランケル氏はロイターのコラムニスト。この記事は同氏個人の見解に基づいている。

 

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