不妊治療中の女性9割が悩む「仕事との両立」

「仕事か治療か」苦渋の選択を迫られる場合も

妊娠をあきらめて、あらためて仕事と向き合った阿部さん。その翌年、CM制作などを手掛ける部署に異動したことをきっかけに、マーケティングに興味を持つ。40歳で転職を決断。女性のクチコミを活用したマーケティング会社を経て、45歳で独立した。そんな激動の日々の中で、子どもを持つことができなかったつらさは薄れていったが、それでも子どものいない人生を受け入れられるようになるまでには10年の歳月を要した。今ではみんながみんな母親になる必要はないし、それぞれの役割があるのだと考えられるようになったという。

「医療の進歩で救われる人がいるのはすばらしいこと。でも、選択肢が増えることによって逆に悩む人もいるのではないでしょうか。不妊治療中は周りが見えなくなる。子どもがいる人がうらやましいということに気持ちが集中してしまって、何を見ても、何を聞いても、なぜ私にはできないのだろうと涙が出るほどでした。自分の気持ちと状況に冷静に向き合って、自分の道を選び取ってほしいと思います」

不妊治療をオープンにできる環境づくりを

不妊に悩む人への支援に取り組むNPO法人Fineが、2015年に2265人を対象に行ったアンケート調査では、実に9割以上の人が「仕事との両立は困難である」と回答した。そして、そのうち4割以上が「退職を含む何らかの勤務形態の変更を行った」という。その数字はまた、仕事のために治療をあきらめた人も数多いということも意味する。

Fine代表の松本亜樹子さんは、この結果を見ながら「会社に何らかのサポートや周囲の理解がなければ、仕事をしながらの不妊治療は難しいということがあらためて浮き彫りになった」と言う。

実際、松本さんのもとにも仕事と治療の両立に悩む数多くの女性の生の声が寄せられている。つい先日も、ある大企業で管理職に就いている女性から退職の知らせを受け取ったばかりだ。遅刻や早退、欠勤を繰り返す自分の存在が職場の士気を下げているようで心苦しかったという。二者択一を迫られ、仕事ではなく治療を取ったのは「もう時間がない」という焦りからだった。

「不妊治療に関しては、まず、職場で言える環境を作ることが大事」と松本さんは強調する。「妊活」という言葉を普通に目にするようになってきて、不妊治療に関する情報もメディアに出ている今、治療をしていることを言えるようになった人は以前に比べると増えてきているのかもしれない。だが、治療開始を打ち明けた直後にプロジェクトから外されたり、部署を異動させられたり、心ない上司に「体外受精は1回で成功させろよ」と言われたりといった、「プレマタニティハラスメント」の事例も後を絶たない。

「このままでは、産みたくて治療を選択し努力をしている女性たちが、仕事と治療を両立させての“輝く女性の活躍”なんて不可能。今こそなんとかしなければいけません」(松本さん)

不妊だけではなく、子育てや介護、それぞれに事情を抱える時期が誰しもある。それを認め合い、協力し合える社会風土の構築が、今後さらに大切になってくるのではないだろうか。

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