マイナス金利なのに、なぜ円高に転じたのか 現実化してきた原油安で米国経済減速の悪夢

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マイナス金利導入を決めた日銀の黒田東彦総裁(撮影:大隅 智洋)

昨年12月には低格付けのジャンク債に投資する米サード・アベニューのファンドが投資家の換金要請に応えられなくなり、清算を発表。同ファンドは実際にはジャンク債よりさらに信用度の低いディストレスト債(破綻企業か破綻に近い企業の債券)に投資していたことが明らかになっているが、いずれにしろ、ブーム終焉を迎えているジャンク債市場のリスクに米国金融市場の注目が集まっているところだ。

さらに、原油をはじめとする資源安は米大陸資源国であるカナダやブラジル、メキシコ、ベネズエラなどの経済を直撃しているが、もともと海外売上高比率の高い米国企業では、これら米大陸資源国への輸出が全体の5割弱(2013年実績)と大きな割合を占めている。

これらの国々への輸出や現地事業での不振は、資本財などのメーカーのみならず、金融業などの業績悪化につながっているのが現状だ。2014年半ば以降、実質実効為替レートで約2割も高くなったドル高も、アップルを筆頭にIT業界の業績をジワジワと痛めつけている。

米国の景気拡大もさすがに終焉か

すでに昨年の段階で、米国のエネルギー業界や素材業界は減益に転じており、大幅な人員削減などのリストラが本格化している。原油安長期化によって企業業績悪化が拡大し、それが米国経済順調の象徴であった雇用面に波及すれば、米国の実体経済はいよいよスローダウンしかねない。すでに今年1月で米国の景気拡大期間は79カ月となり、過去平均の71カ月を超えていることから、「2016年には景気後退期入りか?」といった議論も現地では始まっている。

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週刊東洋経済2月13日号の中吊りです。画像をクリックすると拡大します

現在、世界経済を一人で牽引する米国が息切れすれば、それだけで大きなニュースだ。そうした中で考えられることは、米国が利上げ継続断念→利下げを迫られて日米間の金利差が縮小へと方向転換することだ。その結果、これまでの円安ドル高の基調は根本的に変化する蓋然性が高い。

むろん、それは日本の株式市場にとってマイナス材料だが、日本や欧州が対抗的にマイナス金利拡大などの政策を打ち出せば、世界経済は通貨切り下げ競争の様相を呈すだろう。米国金融政策の正常化というアンカーも失い、世界経済は大混乱が必至だ。その際は20 カ国・地域(G20)蔵相・中央銀行総裁会議などでの協調政策、原油価格の切り上げといった措置が求められることになりそうだ。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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