【物流「2024問題」のリアル】プライドと経営苦の狭間で揺れ動くドライバー心、挫折からの希望をくれたトラックに乗り続けて
ほぼ休憩なしの14時間労働から帰宅して
「今日は集荷先が少なかったから、えらいすぐに終わったわ」。午前8時過ぎに事務所兼自宅を出発したこの日、零細運送会社・末兼運輸(仮名)社長の末兼憲三(仮名、63歳)が帰宅したのは午後10時6分。普段より2時間ほど早いという。
真っ暗なリビングの照明をつけると、冷め切った焼き鳥の盛り合わせ、「オーブンにピザあり」とのメモ書きが食卓に置かれていた。パートとして外で働く妻は、すでに寝入っている。末兼は料理を電子レンジで温め、静かに甲類焼酎「JINRO」のボトルへ手を伸ばす。
以前は帰ってくると、トイプードルの「ソラくん」が熱烈に出迎えてくれた。その愛犬は老衰で去年の夏に死んだ。末兼は今も元気だった頃の写真を部屋の片隅に飾り、傍らにきれいな水とおやつを供える。そして、賑やかしのテレビを眺めながら、酒とつまみを淡々と胃に収めていく。
そんな夜を週5日、トラックに乗るたびに繰り返す。残りの2日は朝から晩まで事務所に籠り、経理や配車計画など、溜まっている書類仕事を片付ける。車両の整備などのメカニックも自分でこなす。
末兼には2人の娘がいる。いずれは会社を継いでほしいと考えた時期もあった。ただ結局、その希望を直接伝えたことはない。2人とも物流とは無縁の企業に就職し、すでに実家を出ている。
「1日ずっと一緒にいて分かったろ? こんな仕事をやりたいと思う奴はいねぇよ」。末兼はそう自嘲したかと思えば、「ドライバーは面白い。一度でもやれば、もう別の職業には就けないね」と誇らしげに語ったりする。おそらく後者の方が本音なのだろう。



















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