「No Dance! No Music!」「肌を隠すショールも返却されない…」《日本人無料・外国人有料》のお寺を訪ねて見た"現実"

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拝観料の二重価格については、特に気づかなかったようで、300円という金額が高くはないので、拝観料についてはまったく気にしていない様子であった。

短い滞在時間であったが、この二重価格は決して「押しかける観光客を減らす」という量的なオーバーツーリズムへの直接の対策というわけではなく、インバウンド対応で生じるプラスアルファの出費を賄うという面が強いが、それでもこの金額では賄いきれていないそうである。

それよりもむしろ、一度チケット売り場に立ち寄りお金を払い、さらに入り口でチェックされるというプロセスが、「あまり勝手な振る舞いはできない」「ここは祈りの場だから謙虚な気持ちになろう」という心理的な「チェックポイント」の役目を果たすという意味合いが大きいのではないかと感じた。

もし何のチェックもなく自由に出入りできてしまうと「第三者の目」を意識しなくなり、禁止事項に気を留めなくなる可能性があるからだ。お寺の方もそうした効果もあると話してくださった。

姫路城の入場料問題結局どうなった?

観光地の二重価格について、2024年春、姫路市長が世界遺産の姫路城について、外国人だけ入場料を値上げするという考えを表明したが、多くの賛否の意見を受けて、最終的に来年3月から現在の大人1人1000円を「市民は据え置き、市民以外は外国人も含め2500円」とするという制度に落ち着いた。

姫路城
来年から市民以外の入場料の値上げが予定されている姫路城(筆者撮影)

また、外国人の入域に対する徴収金を検討するとしていた吉村大阪府知事は、有識者会議による「導入は困難」という答申を受けて提案を取り下げた。市内のバスの混雑に頭を痛めている京都市でも、“二重価格”を模索しているが、外国人と日本人という線引きではなく、「市民と市民以外」という、姫路城と同じ線引きを適用する方針で検討を進めている。

乗り場
京都駅前の「観光特急バス」の乗り場。京都市では市民優先価格の検討が進んでいる(筆者撮影)

南蔵院のような日本人と外国人との間の負担金の線引きは、あくまで民間の宗教施設であること、入り口が1カ所でしかも入場者が多いとはいえそれほど殺到しているわけではないので外国人の見分けがさして難しくないことなどで可能になっているが、どこでも導入できるかというといくつものハードルがある。

こうした二重価格に関して参考になる海外の事情については、ここ3年ほどで10カ国あまりの観光施設などを調査したので別途紹介したいが、あらためてインバウンドをどう受け入れるかという日本の観光地が抱える課題を考えさせられる訪問であった。

インバウンドの今後については、現在日本と中国間の政治的な問題で、中国から日本への渡航自粛が呼びかけられているなど、変化することが予想される。境内で出会った多くの外国からの訪問客が日本の文化に触れ、敬虔な気持ちで過ごしてもらえたらと願わずにはいられなかった。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、高崎経済大学特任教授、京都光華女子大学教授を歴任し、現職。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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