酒田市立琢成小が周年事業で「アントレ教育」導入の訳、大人も参加「授業の中身」 当初は戸惑いも…教員を変えた気づきとは

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校長の小松氏もまた、周年行事については「『物』より『事』を残したい」と考えていた。

「周年行事では、儀礼的な式典の開催に加え、記念品や記念碑などを作ることが多いものです。これらの取り組みはもちろん大切です。しかしそれらは、時が経つにつれて忘れられ、何のために存在するのかわからなくなってしまうこともあります。創立50周年という節目を迎えるにあたり、私は形に残る『物』ではなく、これから何十年も続く『事』、つまり『教育の柱』を創りたいと考えました。これは、本校が大切にする教育方針として、子どもたちや地域にずっと残り続けるものです。本校のこれまでの課題解決に直結し、未来を生きる子どもたちの力になるような取り組みを新たに始めるよい機会だと思い、アントレプレナーシップ教育の導入を決めました」

小松氏は続ける。

「アントレプレナーシップ教育で目指すのは、『子どもたちが最終的に起業家精神を身に付けて世に出ていくこと』と考えられていますが、『必ずこんなことをしなければいけない』といった型のようなものはありません。本校で目指すのは、子どもたちが自分で課題を見つけて解決方法を考えること、たくさんの人と関わり、トライアンドエラーを繰り返しながら探究の学びを深めていくこと。その入り口の一つとしての、アントレプレナーシップ教育であると捉えています」

生活科や総合的な学習の時間の学びがベースに

2024年7月、学校関係者による1回目の50周年実行委員会が開催され、同年12月には小泉氏を招いて教員向けの研修会がスタート。その後、月に1度のペースで研修が行われてきた。

「研修では主に、小泉さんの指導を仰ぎ、子どもたちが失敗を恐れずに挑戦できるよう、生活科・総合的な学習の時間でカリキュラムマネジメントを学びながらアントレプレナーシップ教育について考えてきました。実は当初、教員の間で、アントレプレナーシップ教育の導入に戸惑いがありました。『新しいことを始めるには負担が大きいのではないか』『これまでのやり方を根本から変えなければならないのではないか』といった声が上がったのです」(小松氏)

しかし、実際に学び始めてみると、「アントレプレナーシップ教育はまったく新しいものではない」「これまで行ってきた教育活動を見直し、よい点を生かしながら、子どもの探究サイクルをより効果的に回していくものなのだ」と理解されていった。

この気づきをきっかけに、教員の姿勢は大きく変わった。「こんなことができるのではないか」と自ら積極的にアイデアを出すようになり、教員自身も新しいカリキュラムづくりに探究的な姿勢で取り組むというよい変化が生まれたという。

現に、4年生の総合学習では子どもたちの声から「どんぐりプロジェクト」が始動。秋になると市内の公園などでさまざまなどんぐりが探せるようになることから、学校で開催するお祭りで、どんぐりを用いた工作などを主体的に企画しているという。

「今回の『琢成アントレDAY』は、これまでの生活科や総合的な学習の時間とは異なる形での開催でした。しかし子どもたちには、この日の活動を通して、自分の考えを言葉にすること、周りの友達や大人と話し合いながらアイデアを形にしていくこと、みんなの前で『こんなものができました!』と発表すること、これら3つの大切なことを学んでほしかったのです。

『琢成アントレDAY』での学びを今後の生活科や総合的な学習の時間に生かし、自分たちでテーマを見つけ、友達と協力しながらさらに深く探究できるようになってほしいと考えています」(小松氏)

地域全体で、子どもの未来を育む

酒田市副市長であり、地元企業の経営サポートや商品開発支援を行う酒田市産業振興まちづくりセンター(サンロク)のセンター長も務める安川智之氏は、今回のプロジェクトを「スクール・コミュニティ」の重要な具現化であると捉えている。

安川智之(やすかわ・ともゆき)
酒田市副市長、酒田市産業振興まちづくりセンター(サンロク)長
(写真:本人提供)

「酒田市は3年ほど前から、学校を中心に地域づくりを進める『スクール・コミュニティ』の実現を掲げてきました。これまでの地域の活動はシニア世代が中心になりがちでしたが、今回のプロジェクトでは、現役世代の大人と子どもたちが直接交流する機会が創出されたことが大きな収穫だと思います。サンロクでは現在、アントレプレナーシップ教育を高校生向けに展開しています。琢成小学校の取り組みは、『小学生のトライアル』として位置づけ、PTAと連携しながら学校がバックアップ役として関わり、地元の経営者に参加の声かけなどを行いました。

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