「担任をしても手当がつくわけではありませんし※、主幹教諭は業務量も多いので、当然負担は増していますが、やはり楽しいんですよね。大変ではありましたが、だからこそ続けてきました」
※2025年6月現在、文部科学省の審議会において、教員の処遇改善策として「担任手当の支給」が検討されており、2026年度から実施される可能性がある
続けられたのは、前述のように教員同士が自然に助け合うなど働きやすい環境が整っていたからでもあったという。初任の高校も、主幹教諭となった2校目も、その点は共通していたそうだ。
ところが、3年前に異動した現在の勤務校は様子が違った。着任初日から明らかな違いを感じさせる出来事があった、と若林さんは明かす。
「事前に、主幹教諭として着任することは決まっていましたが、その仕事内容は着任当日までまったく知らされなかったんです。私は複数の教科で教員免許を持っているのですが、どの教科を担当するかすらわかりませんでした」
教員のキャリアは長かったものの、異動の経験は実質2回目だった若林さんは、初めこそ「こんなものなのかな」と思っていた。しかし、周りに聞くと「そんなことはありえない。副校長がサボっていたのでは」という驚きの言葉が返ってきたという。
「当時の体制では、副校長がそうした連絡を担当していたのですが、それを怠っていたわけです。実際に勤務をするうちに、副校長自体に問題があることがわかってきました。一言でまとめると、ものすごくパワハラ気質の人だったんです」
教員を理不尽に怒鳴りつけ、聞くに堪えない暴言を吐く。これが日常的に行われていたため、職員室内の雰囲気は非常に悪かった。若林さんも、さしたる理由がないのに毎日暴言を受けたという。
「ひどかったのは、保護者から電話がかかってくると、対応する担任の横に副校長がぴったり仁王立ちでついて『その言い方はないな』などとダメ出しをするんです。前の勤務校では、その場にいる先生たちで一緒に対応策を考えたり、必要に応じて助け舟を出したりしていましたが、副校長は助けるどころか、“評価”が始まってしまうのです」
こうした雰囲気の中で、助け合いの輪が生まれるはずもない。それどころか、生徒や保護者の対応は担任のみが行い、他の教員は介入しないという不文律ができあがっている。副校長のほか、彼に近いベテラン教員がこの風土を主導している状況だ。
「担任をしているのは20代、30代の先生がほとんどで、みんな本当に一生懸命取り組んでいるんです。でも、それは個々の若さと情熱に支えられている部分が大きいと感じます。理不尽な暴言を受け続ければ、いつかそれも崩れて、メンタルに悪影響を及ぼすのではないかと危惧しています」
ずさんな会計処理の尻拭いで「完全に心が折れた」
そう話す若林さん自身も、副校長のパワハラには疲弊している。そこへ追い打ちをかけたのが、使途不明金の発覚だった。
「私は主幹教諭としてPTAとも連携しているのですが、会計をチェックしたら決算の数字と通帳の残高に相違があったんです。前の学校でも会計処理を担当していたので、このあり得ない事態にはとても戸惑いました」
PTA会費の管理担当は、問題の副校長だった。数字が合わないことを報告した若林さんに対し、副校長は「通帳がおかしいんじゃないのか?」と言い放ったという。
「仕方なく、引き継いだ帳簿をすべて整理しておかしな点を1つひとつ指摘したところ、なんと『こっちの帳簿が正しかった』と別の帳簿を渡してきたんです。しかしよく見ると、元の帳簿には校長がしっかり印を押しているのに、新しい帳簿には校長印がなかったんですね。それを指摘すると、『印鑑だけの話だろ』と軽くあしらわれました」