先生を悩ませる「保護者」、なぜトラブル絶えない?"対等な関係"構築に必要な視点 さまざまな場面で使える声かけ7つのフレーズ
――「モンスターペアレント」という言葉が定着して以来、「保護者対応」をめぐるトラブルは後を絶ちません。先日立川市で起きた事件のように、学校の業務に大きな支障をきたす事例も頻繁に報じられています。
立川の事件のようなセンセーショナルな報道のされ方は、とても危険だと思っています。あの事件はあくまで例外中の例外です。保護者の方のほとんどは、いわゆる「サイレントマジョリティー」。協力的で理解があり、私たちを信頼して子どもを任せてくれています。
あのような大きな事件が起きると、「なんでこんなことになったのだろう」「背景は何だろう」などと考えたくなるのは十分理解できますが、たった1つの特異なケースをもって、「保護者ってこうだよね」「保護者対応ってこうするといいよね」などと大きな主語で語ってしまうのは、どうなのかと。
――確かに、そうした報道が過剰に注目されることで、保護者が持つ学校への信頼や、日々の地道な連携が見えにくくなってしまう面がありますよね。
日本にはもともと、近所の人や親類といった「インフォーマルな(非公式な)支援システム」が分厚く存在していました。ひと昔前は、地域全体が子どもを見守り、ちょっと困ったことがあればこれらの方々が手を差し伸べ、いわゆる「はみ出し者」も皆でケアしあいながら、なんとかやってこられたのです。
しかし、核家族化や働く人の長時間労働が常態化し、さらにかつて地域にいた女性や高齢者が仕事に出てしまったため、こうしたインフォーマルなリソース(支え)が失われてしまいました。その結果、本来地域や家庭で担われていた役割が、今は学校に「最後の砦」として集中してしまっています。学校システムが全体的に行き詰まっている一端には、「モンスターペアレント」というより、このような問題があると捉えています。
本当に困っている保護者を支えるシステムが整っていない
――自治体によっては、専門部署をつくって保護者対応する動きもあります。このような取り組みについてのご意見を聞かせてください。
教員の負担軽減という視点から見れば、「保護者対応専門部署」の設置には賛成です。ごく一部の保護者からの理不尽なクレームによって先生方がストレスを抱え込み、日々の業務に支障をきたすくらいなら、専門部署はあったほうがいいと思います。
ただし、家族支援者の立場から言うと、その専門部署があるのなら、いわゆる「モンスターペアレント」と呼ばれるような行動をする人たちは何かしら抱えている問題があるはずですから、そこをしっかりひも解いて、その方の心と体の健康を守るところまで関わってほしいと思います。
「モンスターペアレント」と指摘される方々は、多くの場合、ご自身が抱えている問題に無自覚なことが多いものです。そうした方々への支援は非常に難しく、また根気がいるもので、継続的なサポートが必要です。これは、多忙な学校の先生方が片手間で担えるようなことではありません。
――スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが、その役割を担うことができるのではないでしょうか。
スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに加え、主任児童委員、子ども家庭支援センター、児童相談所といった専門職の方々が、困っている保護者を支援すべきだと定義されています。そして、それぞれの立場で熱意を持って懸命に取り組んでいる方もたくさんいらっしゃいます。
ただ、ここで大切なのは、「誰がやるべきか」と、肩書(属性)や資格に注目するだけではなく、「難しいその支援を、最後までやり遂げられる人がいるか」「どのようにやり遂げるのか」に目を向けることだと私は思います。もちろん、一人ひとりの専門職の方が頑張っているのは確かです。しかし、すべての関係機関が効果的に連携し本当に困っている保護者を手厚く最後まで支えるためのシステムが、日本全体でしっかり整っているかと言ったら、残念ながら「整っていない」というのが現状だと感じています。
保護者と「対等」で「隣り合う」関係へ
――「先生」にとって、「保護者」とはどのような存在なのでしょうか。先生と保護者はどのような関係が望ましいとお思いでしょうか。
子どもを育てる責任を負っているのは保護者です。制度的に捉えるなら、「先生」は、保護者が果たすべき第一義的責任のうち、「学業」の部分を期間限定で「肩代わりしている存在」です。「子育ての期間は子どもが成人するまで」と捉えるならば、保護者は、子どもが0歳から20歳になるまでずっと子育てしています。もし私たちが、その20年間ずっと一緒に子育てしているなら「仲間だね!」と言えるかもしれません。
先生が担任として保護者と関わるのは、たった1〜2年。けれど、短い期間であっても「子どものよい育ち」という同じ目的を見据える濃密な関係です。この期間だけでも「仲間」として過ごせたらいいなと思っています。「対応」という「向かい合う」関係ではなく「対等」で「隣り合う」関係として。


















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