練習が講義と被らないよう監督が配慮、プロも視野に就活
まず話を聞いたのは、八戸学院大学でラグビー部主将を務める4年生の廣瀬大翔さん。高校入学のタイミングで目にしたラグビーの試合をきっかけに自身もラグビーを始め、大学でも競技を続けてきた。

八戸学院大学 ラグビー部主将
(写真は本人提供)
大学生活では部活動が大きなウエイトを占めるものの、基本的には授業時間と被らないように監督が配慮してくれるため、実際に大きく困ったことはなかったという。
「ただ、教職課程を履修しているなどで講義数が多い部員の場合、夕方の練習時間と講義が30分ほど重なる日はあります。また、筋力トレーニングなどは講義前の朝の時間帯に行うので、1限目の講義がある日は体力的につらさを感じることもありました。自分は学業との両立を考えて、1日に10分でも20分でも予習・復習をする習慣を心がけていました」
八戸学院大学のラグビー部は、プロ選手も輩出している東北の強豪校だ。卒業後の進路を尋ねると、プロ選手を目指してセレクションを受けることを検討する一方で、就職活動にも取り組んでいるという。
「OBの方や先輩からは、『ラグビーを頑張っていれば報われる』と聞きますし、実際にプロになった先輩もいます。自分自身、ラグビーを続けたいという思いが強かったこともあり、就職を意識し始めたのは3年生の後半と遅めでした」
就活のために何度か練習を休まなければならず、仕方がないと思いつつも「ストレスだった」と廣瀬さんは語る。監督に確認して許可が出れば練習を休み、大事な練習や試合前は企業側に相談して時間をずらしてもらうなどで対応したそうだ。

(写真は本人提供)
「面接では、主将としてのチームのまとめ方をアピールしました。全員が同じプロセスを持つことが大事なので、共通認識を作るためにミーティングを設けたり、部員一人ひとりと会話したりしたことを話すと、悪くない反応をいただけた気がします。キャリアセミナーを通じて自己分析や業界研究のきっかけをもらったことで、自分では気づけなかった適性を知ることができ、就活や就職を前向きに検討できるようになりました」
就活支援を通じて、自身に「外交的でコミュニケーション能力がある」と知った廣瀬さん。自分としては意外な評価だったそうだが、部活動での経験が生きたという納得感はあり、興味を持てる業界や職種も広がったそうだ。面接では、部活動を経て気づいたコミュニケーションの重要性を伝えるようにしており、実際にコミュニケーション力を裏付けるエピソードは人事からも高評価なようだ。
平日の大会で「講義が公欠続き」に不安、指導者の理解が不可欠
続いて話を聞いたのは、富士大学ハンドボール部で選手として部活動に励んできた4年生の水野有彩さん。ハンドボールは小学校4年生から始め、10年以上の競技経験を持つ。高校卒業時、一度は競技を離れることも考えたが、富士大学の監督から声をかけられたことで継続する覚悟を決め、現在に至る。

富士大学 ハンドボール部
(写真は本人提供)
「学業との両立に悩んだ経験はあります。平日に大会があることも多く、公欠届を提出して講義を休めば公欠扱いにはなるものの、欠席が多いと担当の教授から悪い印象をもたれることもあるため、成績は上がりにくかったですね」
部活動は週6日。平日は17時半から19時半までで、土日は午前練が基本だ。水野さんの担当ポジションは人数が少なく、1〜2年生から先輩にまじってプレーしていたこともあって練習を休みにくく、何よりも部活動を優先することが多かったそうだ。
「監督からも『部活動に集中してほしい』という気持ちは感じるので、学業や就活のために何度も休むのは難しいと感じていました。説明会はほぼ部活動と日程が被ってしまい、オンライン参加を中心に選んだこともあって、現地参加はあまりできなかったです。また、同じく就活中の同期とは予定を共有しあい、練習を欠席する日が被らないように気をつけています」
普段から、「今は部活動に集中、オフの期間は勉強に集中」と期間を決めてメリハリをつけて活動してきたという水野さん。就活については、強豪の部活動ほど指導者の理解が必要になるだろうと語る。

(写真は本人提供)
「監督が『行ってきていいよ。その分、次回の練習は頑張ってね』、と言ってくれれば、素直に受け止められると思います」
一方で、10年以上取り組んできたハンドボールの経験は、就活においても自身の大きな強みになりそうだ。
「人生の半分以上競技をしてきているので、やはりこれまでの経験は自己PRに盛り込みたいです。ストレス耐性や責任感、協調性はもちろんのこと、自分の立場を考えて人間関係の対立を解消したり、課題に対して問題の根本をひもといて解決に導く力は鍛えられたと感じています。これらを言語化してアピールできたらと思っています」
水野さんは卒業後も何らかの形で、ハンドボールやスポーツは続けたいと語ってくれた。
マネージャーならではの「強み」は人事担当にも刺さる
3人目は、國學院大學アルティメット部でマネージャーを務める4年生の岡村日菜子さん。高校生までは陸上部で選手をしていたが、病気で競技から退くことに。それでも、社会人になる前にスポーツを通じて仲間たちと頑張りたい、選手とは別の形でスポーツに関わり続けたいと考え、大学ではマネージャーとして部の運営に携わってきた。

國學院大學アルティメット部 マネージャー
(写真は本人提供)
岡村さんの学科では履修選択の自由度が高く、オンライン授業を中心に、部活動に支障が出ない履修を組んで工夫したことで、学業との両立に苦労することはそれほどなかったという。しかし、1年次は土曜日に必修講義があり、大会に遅れて合流しなければならないなど心苦しい思いもした、と岡村さんはふり返る。
就活は3年生の10月ごろから本格的にスタート。それまでもインターンに参加するなど、重要なポイントを押さえて活動してきた。そのかいもあり、岡村さんはすでに複数社から内定が出ているという。
「マネージャーとして、周りを見る力や、仲間と協力して課題解決をする力、自主的に工夫する力などがついたと思います。マネージャーの仕事は、選手が競技に集中できる環境づくりやパフォーマンス向上のための録画や記録など多岐にわたります。面接でも興味を示していただくことが多く、アピールになったと感じています。私自身、元々は内向的な性格だったのが大学に入ってから社交的になったと感じています。これも部活動によるところが大きいですね」

(写真は本人提供)
就活ではタイムマネジメントが重要だという。面接や説明会の日程が練習と重なることも多く、練習を休まざるをえない日もあった。幸い、先輩やメンバーからの理解がある環境だったため、精神的な負担はそれほど大きくなかったものの、就活期間中はアルバイトも減らしていたため金銭的な不安は大きく、大会費の工面には苦労したそうだ。
「スポーツ学生に限らずですが、就活が実質3年生からスタートして4年生までの長期間に及ぶことで、精神的に疲れた感覚はありました。また、内定承諾の期限と『別の会社も受けたい』という思いがぶつかることもありましたね」
運動部学生を支える環境づくり、学生スポーツへの還元を
就活の長期化が、学生の学業や研究に影響を及ぼしているという話は聞く。おそらく、部活動の影響も無関係ではないだろう。学生は自分たちの将来を考えればこそ、学業・部活動にも、就活にも全力を注ぎたいはずなのに、どちらかしか選べないジレンマにさらされているのだ。
こちらの記事で話を聞いた、一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)の山田氏は、インタビューの結びで「スポーツの本質は、楽しむことです」と口にした。現代の日本では「これ」と決めたらその競技に集中して取り組むことが美徳のように思われがちだ。しかし、「本来はもっといろいろなスポーツに挑戦してよいし、いろいろなタイミングでそれを楽しんでほしい」と山田氏は語った。

一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS) 広報部 部長
(写真は本人提供)
「スポーツに関わる方法は、競技者以外にもたくさんあります。例えば、勤務先がどこかのチームのスポンサーをしているかもしれないし、社会活動としてスポーツを奨励しているかもしれない。スポーツに関わる場面がたくさんあることで、スポーツ自体の裾野もどんどん広がっていきます」
運動部学生のキャリアは、部活動の経験から得られた力で切り開かれていく。これを支えるのはコーチや指導者、そしてファンたちだ。学生時代に競技者として、観覧者として、その他さまざまな形でスポーツを愛してきたファンたちが、社会人になって学生スポーツに還元していく。この好循環を回し続けるためにも、スポーツに興味を持った子どもや若者たちが臆せずそのキャリアを歩める環境を作ることが、今後さらに重要となるのかもしれない。
(文:藤堂真衣、注記のない写真:Anthony / PIXTA)