神田直樹(筆者)
高校にも塾にも通わず、トップクラスの成績で東京大学文科Ⅰ類に合格。法学部を卒業後、McKinsey & Companyを経て、国語特化の個別指導「ヨミサマ。」の代表を務める。
Aさん
岡山県の中堅校出身。2025年東京大学理科Ⅱ類合格。小学生のころに一時塾に通うも、集団授業の雰囲気が合わず独学を選択。
Bさん
東京都立の高校出身。2024年東京大学文科Ⅰ類合格。部活や委員会の活動に力を入れていたため、忙しさから塾に通わず独学を選択。
Cさん
静岡県の非進学校出身。2024年東京大学理科Ⅱ類合格。塾の費用負担を考慮し、独学を選択。大学入学後は、地方教育格差の解消に関する活動に取り組んでいる。

東大受験に向けて、なぜ「塾なし」を選んだのか
東大に合格する確率を最大化するためには塾に行くのが「王道」とされていますが、ここに集まった東大生たちはなぜ「塾なし」で東大を目指すことを選んだのでしょうか。
Aさん「小学生の頃、短期間だけ塾に通っていたのですが、集団授業の塾が私には合いませんでした。算数や国語は周りよりも得意だったので退屈でしたし、一方で社会や理科は先取り学習ができていなかったので、先生から『6年生なのにこんなことも知らないのか?』と言われることもありました。自分の興味に沿った学びをしたいと思うようになり、塾に行かない道を選びました」
Bさん「週5-6で部活や委員会があり、とにかく時間がありませんでした。家に着くころにはヘトヘトで、東大に現役合格するならば塾に通っている暇はない、と思いました。独学で学ぶことを決めて、問題集も学校も使えるものはすべて使いました」
Cさん「塾は高額なところになると月に10万円近くかかるところもありますよね。集団授業で、自分に合わせてくれるわけでもないのに、その負担を両親に強いるのが嫌だったんです。両親は『塾に通ってもいいよ』と言ってくれたのですが、自分の気持ちとして塾にお金は払えませんでした。そもそも、近くには東大を目指せるような塾はなかったのですが……」
私自身が独学を選んだ理由は、授業内容に左右されてしまう学校や塾よりも、自分で学習内容を選択できる独学の方が効率が良いと考えたからです。ひとことに「塾なし東大生」といってもさまざまな背景が存在します。
しかし、その中でも共通しているのは、周りには流されず、「自分自身にとって最適である」という基準で、自分の道を選び取る“意思決定力”を有していることです。
板書は写さない?授業の受け方に共通する点
塾なしで東大を目指すには、高校の授業時間を活かしきることがとても大切。いわば、塾なし東大生は授業の受け方の「達人」と言えるわけですが、彼らはどのような工夫をして授業を受けていたのでしょうか。授業中の「ノートの取り方」に注目してみました。
Aさん「私は授業中に一切ノートを取りませんでした。板書を写すことに集中してしまうと、その間先生の話が頭に入らなくなってしまうんです。なので、授業中は徹底的に先生のお話を聞いて理解することに集中し、板書などは授業後にスマートフォンで写真を撮って保存していました。スマートフォンが許される学校で良かったなと思っています」
Bさん「私も、板書を写すことはしていませんでした。黒板に書かれている内容はほとんど教科書や参考書に載っているものなので、わざわざ書き写す意味を感じませんでした。逆に、教科書に載っていない情報や先生の小話などをその場で教科書やプリントに直接書き込むことで、自分だけのノートを作っていました。教科書やプリントを読めば、当時の授業の雰囲気まで思い出すことができるようになりました」

Cさん「私もノートは取っていませんが、2人とは全然違う理由です。私の学校は非進学校なので、授業の進度がとても遅かった。このペースでやっていたら東大には間に合わないので、授業中は先取り学習や別の教科を進める“内職”をしていました。なのであまり授業内容は覚えていないのですが、その分自分の勉強をどんどん先に進められました」
高校に通っていない私はもちろんですが、座談会のすべての参加者が板書を写していないという結果でした。後日、他の独学東大生十数名に行ったアンケートでも、板書をそのまま写していた人はほとんどいませんでした。
保護者や指導者はついノートを取っているか否かに注目してしまいますが、板書をただ写すだけではなく、授業内容をしっかり想起できるような仕組みが作られているかに目を向けていくことが、成績向上の第一歩だと思います。
「毎日やりきる“仕組み”を作る」学習の習慣化の共通点
塾なしのもう一つの難しさは、学習習慣を作ることにあります。自由に学習計画を組めるからこそ、つい怠けてしまいがち……。
さまざまな学校行事と両立しながら、彼らはどのようにして学習習慣を作っていったのでしょうか。
Bさん「部活が忙しい分、自律して学習をする必要がありました。ここで役に立ったのが、片道1時間の通学時間です。高校に通いたての頃は長い通学時間が苦痛だったのですが、逆にこの時間が勉強習慣につながりました。電車内は勉強をする場所、と決めていたので、最低でも1日2時間は勉強できました。放課後は学校の空き教室に残って勉強していたので、毎日3-4時間程度は勉強していました。通学時間や学校に存在している時間が“強制的な学習時間”になっていたのは大きかったと思います」
Cさん「1日たりとも勉強しない日を作らない、というのが自分のこだわりでした。たとえ体調が悪くても、どんなに忙しくても、5分は必ず机に向かう。そうすると学習習慣は途切れないのです。東大入試を決めたときから、入試の合格発表日まで1日も休まず勉強を続けていました」

1998年生まれ。中学生のときに東大を目指すことを決め、高校にも塾にも通わず、通信制のNHK学園を経て、独学で2018年東京大学文科Ⅰ類合格。東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、“独学3カ月コーチング”の「オーバーフォーカス」や“東大生が作る国語に特化した個別指導”の「ヨミサマ。」を立ち上げる。著書に自分自身の独学ノウハウを詰め込んだ『成績アップは「国語」で決まる!』がある(X:@Kanda_Overfocus)
(写真は本人提供)
ここで、私がおすすめする学習習慣の作り方は、私自身も中学生のころ取り組んでいた、「1日30分より長く勉強をしない」というユニークな方法です。1日の勉強時間は、30分以内であれば何分でも構いません。
通常、「毎日30分以上勉強しよう」などと、習慣のために学習時間の「下限」を設けることが多いですが、発想を逆転して、「上限」を設けることをおすすめします。
この方法を使うと、いくつかのメリットがあります。
勉強のハードルが下がる
勉強を何時間もしないといけない、と思うと腰が重くなってついやらないままになってしまいがち。数分でもやればOKなので、まずは気軽に始められます。
学習方法を工夫するようになる
30分までしか勉強ができないため、やり方を工夫しない限りは今までと同じ範囲を勉強することができません。必然的に、全範囲をやるためには学習の質を上げねばなりません。
結果的に毎日勉強しないと追いつかない
1日の学習時間が少ない分、テスト直前などに詰め込みで勉強することができないため、結果的に長い期間勉強するようになっていき、最終的には毎日学習することにつながっていきます。
塾なし東大生の先生や保護者に共通する、受験生への関わり方
塾なしでは、保護者や先生との関わりの比重が大変大きくなります。彼らにとって、周りの大人はどのような存在だったのでしょうか?
Aさん「受験期に一緒に過ごしていた祖父母は大学に行っていないこともあり、こちらの勉強には口を出すことはありませんでした。ただ、夜食を用意してくれて、静かに応援をしてくれました。受験期は、『勉強頑張ってね』なんて言われることも嫌だなと思っていたので、静かに応援してくれることがすごくありがたかったです」
Bさん「先生との関係でとても感謝しているのが、東大の過去問についての議論をマンツーマンでしてくれたことです。東大に『受かる』か『落ちるか』という次元の話ではなく、東大の問題をどうすれば完璧に解けるかを話し合っていたあの時間のおかげで、合否そのものよりもさらにハイレベルなことに集中でき、精神面、学力面共に成長しました」
Cさん「親戚にも同級生にも東大を目指す人はいなかったのですが、家族や身近な友人はそのことに言及しませんでした。そんな状況だからこそ、毎日淡々と東大合格に向けての努力を積めたのだと思います」
私自身の両親も、「東大にトップ合格するために高校には通わない」という選択を、何も言わずにサポートしてくれました。
今回の座談会で、皆が口を揃えたのが、周りの人が自分を信じて静かに応援をしてくれたこと、そして東大の合格そのものではなく、さらにその先の景色を見せてくれたということです。
“塾なし東大生”たちの座談会を通じて見えてきたのは、主体的に自分たちの学びをデザインしているという姿勢でした。塾に通わないという選択肢は、東大入試においては決して王道ではありませんが、自分で自分の人生を切り拓く彼らを見ていると、受験生活で勉強以上の学びを得たのだと感じます。
(注記のない写真:yuzora / PIXTA)