通級指導歴17年のベテラン教員に聞く「自分らしい学び方の追求」に必要なこと どんな子も「勉強ができるようになりたい」
例えば、書写の硬筆の授業では、お手本に複数の行にわたって文字が書かれていると、情報量が多すぎて混乱してしまうADHDやLDの子もいます。その場合には以前、お手本に1行ずつ切れ目を入れたものを用意して、書き写す行だけを残して見ることができる教材を作りました。

国語の漢字の学習なら、視覚的なイメージを通じて学習したほうが理解しやすい子には絵で解説したプリントを配る、触覚を用いたほうが理解しやすい子には工作用のモールで漢字を立体的に作って触れながら学習を進められるようにする――というように、個別に対応していきます。必要に応じて、タブレット端末の活用を提案することもあります。こうしたツールを教科の先生方に見せて説明すると、「この子はこの方法なら学べる」ということを理解してもらいやすいというメリットも感じています。

――タブレット端末はどのように活用しているのですか。
文字を書くことが苦手な生徒は、ノートを取る代わりに、板書をタブレット端末で撮影して保存することもあります。本校では生徒全員がタブレット端末を自由に利用できる環境にありますので、「あの子だけずるい」と不満が出ることもありません。むしろ、通級のときに受けられない通常学級の授業の板書を、クラスのお友達がタブレット端末で撮影して共有してくれたりします。
タブレット端末の活用状況は学校によって温度差がありますが、生徒全員がいつでも使える環境であるべきでしょう。調べ学習で調べたことを新聞にまとめるような場合でも、手書きのほうがやりやすい子もいれば、タブレット端末のほうがよい子もいるので、全員が自分に合った手段を選べるようにすることが重要だと思います。
いじめには「個別の支援チーム」を立ち上げて対応
――いじめ対応については、どのような取り組みをしていますか。
通級の生徒の中には過去にいじめられたことがあると訴える子もいて、いやなことが起きたらすぐにSOSを出してもらえる態勢を整えています。いじめ被害を訴えてきた生徒には、何がいつ起きたのか、今の気持ち、担任や通級の先生にそれぞれしてほしいことなどを「いやだった報告書」に記入してもらい、それに沿って聞き取りをします。

そしてすぐに担任や学年の先生と連携するとともに、生徒本人に対しては市販のワークブックを用いて、「いじめられたあなたに非があるわけではない」ことを説明します。
それと同時に、いじめ対応は時間勝負なので、生徒を支援するためのチームもすぐに立ち上げます。いじめ被害者の生徒自身に「この人なら話しやすい」と思える先生や生徒を複数挙げてもらい、そのメンバーを中心に複数人からなるチームを作ってサポートを行います。いじめは先生が見ていないところで行われるものなので、生徒にもチームに入ってもらうことで、いじめ被害者の生徒を守る存在を増やすことができます。