蜩ノ記 葉室麟著
今年も直木賞は期待を裏切らなかった。がっしりした構成、多彩な登場人物、研ぎ澄まされた文章、候補作に挙がること5回目にしての受賞にふさわしい。自然描写も人物の心象と重なって見事であり、何よりも謎解きと主人公の生死がタペストリー様に織り上げられて興味を最後までつなぐ。直木賞ならではのエンターテインメント性も十分だ。
お家争いに巻き込まれて10年後の切腹を命じられ、軟禁の間に家譜編纂に携わる主人公を、監視役を命じられた若い藩士が訪ねる場面から話は始まる。同僚を居合で障害持ちにした藩士もまたかろうじて切腹を免れている。この二人の組み合わせが人間愛、武士道、人としての生き方などを物語るにこれ以上ない人物造形を可能にさせている。秘密文書奪取をもくろむ家老が、農民の子供を部下が拷問死させたことで窮地に立たされる終幕は、悪徳家老にしては策がなさすぎる気がしなくもないが、読後感は爽快である。(純)
祥伝社 1680円
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