ウクライナ戦争の遠因作ったメルケル「歴史のif」 ロシアの侵略行為への宥和政策が見くびらせた
回想録では、「私は以前から、中国とインドの経済的成果は、世界の力関係を彼らの側に移動させると信じていた。従って私は両国との関係を緊密なものにしたかった」と書いており、ドイツの貿易総額に占める対中貿易額の割合は、2006年4.8%だったのが、2021年の退任時には9.5%にまでなったと成果を誇っている。
回想録では、対中関係は現実主義的政策(ドイツ語でRealpolitik)だったとして、権威主義体制で人権問題も深刻な中国との関係強化を正当化している。具体的には、「意見の違いは相互に認識し、お互いの政治制度を所与のものとして尊重し、共通の利益から協力分野を導き出した」という。
中国に対しても「関与すれば安定」という甘さ
また、次のような点も強調している。
非民主主義国家の政治家との直接対話は、少しでも互いの共通点を発展させるために不可欠で、特に地球温暖化対策における中国の協力は重要。習近平・国家主席の中国はアメリカと並ぶ世界強国になろうとしていることに疑いはないが、その願いそのものは不当であるとは言えない。
問題はやり方であり、東、南シナ海での領土要求を一方的に貫こうとしている。米欧がロシアとの関係を悪化させればさせるだけ、ロシアが中国に接近することになる。欧州は法に基づく多国間協調を世界全体で促進するために、あらゆることをしなければならない――。
メルケルには、自由民主主義の価値に反する中国が世界的に影響力を増すこと自体が脅威になりうる、との発想はないようで、中国への関与を強めることが世界の安定につながるという考え方の枠を出ていない。
安全保障の視点でのインド太平洋地域への関心は薄く、価値を共有する国々(like-minded countries)が連携して、中国の軍事的な影響力拡大を抑止するという考え方は見られない。
回想録全体に日本に対する関心がほとんど見受けられないのも、メルケルの世界認識からすれば、むべなるかな、だろう。
ドイツも含め、欧州主要国が軍艦、軍用機、陸軍部隊をインド太平洋地域に派遣し、欧州連合(EU)も対中リスク低減(de-risking)を唱えるようになった現状から見れば、メルケルの対中姿勢も対ロシア姿勢に通底する甘さを感じさせる。
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