ウクライナ戦争の遠因作ったメルケル「歴史のif」 ロシアの侵略行為への宥和政策が見くびらせた
内外に強い反対があったのにもかかわらず、また結果論ではあるが、「廃墟プロジェクト」となってしまったNS2建設を、なぜメルケルは進めたのか。
回想録によれば、脱原発を進めるドイツにとって、温室効果ガス排出が少ない天然ガスの重要性は高まっていた。しかし、オランダからのガス供給はますます少なくなり、ノルウェーからのガスもその埋め合わせに足りず、アゼルバイジャンと欧州を結ぶ「南ガス回廊」からの供給も十分ではなかった。アラブ諸国からの液化天然ガス(LNG)もコスト面で賢明な選択肢にはならなかった。
さらに、冷戦時代、ソ連からの天然ガス、石油の供給が滞ったことはなく安定した貿易相手だったことや、NSは第3国を通過しないため通過料が発生せず、ロシアと第3国間の関係が緊張することによる供給停止を回避できることを長所に挙げている。
エネルギーの安定供給を優先し、ロシア侵略を甘受
回想録は「もし2014年にロシアからのガス輸入割合を減らしていたら、2022年のようなエネルギー価格の上昇の問題に直面していただろう。政治的にそれを受け入れることは非常に難しかっただろう」と書いており、安価なエネルギーの安定供給が最優先だった。
しかし、これらの考慮を優先した結果、プーチンに対し、侵略的な行動をとっても甘受するだろうと、ドイツを見くびる予断を与えてしまったことも考えられる。しかし、メルケルにはそうした反省はないようだ。
付け加えるならば、メルケルは、アメリカが国益のため、すなわちフラッキング(水圧破砕法)によって採掘したLNGを欧州に輸出するために、同盟国の経済プロジェクトすら阻止しようとしたとの見方も書いている。
中国との間でも、メルケルは一貫して関係強化を図った。
メルケルの任期中の訪中は12回に及ぶ(訪日は6回)が、ほとんどが大規模な経済ミッションを引き連れてのものだった。首脳会談で人権問題を取り上げ、人権活動家との面会を行うなど、原則的な立場はかろうじて保ったが、経済的利益を損なわない程度にとどめていた。
中国の重要性は何をおいても経済であり、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカを加えたいわゆる新興5カ国(BRICS)の一国として、その経済成長の果実をドイツ経済も取り込もうという発想だった。
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