小学校段階で「英語格差」、「英語嫌い」が増え教員も指導困難に陥った根本原因 英語教育学の専門家が戦慄した調査結果の数々
あれもこれも求めすぎる学習指導要領の下で、子どもたちの英語離れが進んでいる。先の調査では「英語の授業内容がよく分かる」は64.4%で前回より2ポイント減、「英語の勉強が好き」は52.3%で4ポイント減、「将来、積極的に英語を使いたい」は37.2%で5ポイント減。すべてがマイナスで、企業なら経営の危機だ。普通に考えれば、政策の失敗は明らかだ。
背景にエリート育成策?「中学英語」のあるべき姿とは
ところが、国はこうした政策を意図的に実行している可能性がある。
小学校英語の教科化や中学校での「英語で授業」などの基本方針は、安倍政権が2013年に閣議決定した「第二期教育振興基本計画」で定められた。同年、自民党教育再生実行本部は提言の中で「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」を打ち出した。日本経団連も2018年の提言「Society 5.0」で「日本的平等主義から脱却し、各領域で抜きん出た才能を有するトップ人材やエリートの育成」を求めた。政財界は、英語が使える「グローバル人材」というエリート育成を学校教育に要求しているのである。
そのため学習指導要領で英語の難度を大きく引き上げ、ついて行ける少数の上位層と、ついて行けない大多数の生徒との格差を作りだしているのではないだろうか。
しかし、義務教育である小中学校の役割は、平等と協同の原理で、すべての子どもに基礎学力を保障し、学ぶ喜びを与えることである。そのことを通じて、主体的に学び続ける人間が育つ。過度の競争による早期の格差化は、学習意欲を失わせ、伸びゆく芽を摘み、将来的には日本社会の分断を拡大させかねない。すでに子どもたちはSOSを発している。2023年度の不登校生は、小学校で10年前の5倍、中学校で2.2倍に達している。方針転換が急務だ。
次期中学校学習指導要領では、新出単語数や文法項目を精選し、生徒への過重な負荷を軽減する必要がある。「授業は英語で」を国が一方的に定めるのではなく、生徒の実態や指導内容に応じて教師の自由裁量に任せるべきだ。
また、「個別最適な学び」よりも「協働(協同)的な学び」に重点を置くべきだ。私は数千の教室と数万人の生徒の授業を観察し、教員に授業改善のアドバイスをしてきた。その結論から言えば、今後は少人数グループで仲間同士が助け合い・学び合う協同学習を増やすことで、教室を安心・安全な居場所にし、学力の底上げと格差是正に取り組む必要がある。それはどの教科にも言えることだが、とくに外国語教育は「ことばの教育」なので、協同学習によって人と人とのコミュニケーションの機会を増やすことが大切だ。
タブレットPCなどの端末は便利な反面、協同的な学び合いの障害物となる場面を私は何度も目撃してきた。4人班に1台程度のほうが聴き合う関係が強まり、学びが深まるようだ。近年の研究では、スマホやパソコンによる学習は脳が活性化しにくく、記憶定着率が低いことが指摘されている。さらに、思春期の子どもの脳の成長を阻害することも報告されているので、依存は危険だ。紙媒体の教材の適切な使用や、生身の人間同士の直接的な関わり合いを大切にしたい。
望まれる外国語教育改革は、過重なノルマや数値目標で子どもを追い立てることではない。すべての子どもに外国語を学ぶ喜びをもたらし、「ことばの力」と「協同する心」を育てることであろう。
(注記のない写真:beauty-box/PIXTA)
執筆:和歌山大学名誉大学教授 江利川春雄
東洋経済education × ICT編集部
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら