私立学校も義務化「合理的配慮」、多くの経営層に欠けている「コンプラ」の視点 進学フェアで門前払い、交渉できないケースも

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冒頭のA氏が参加した進学フェアでの私立学校の対応については都も把握しており、「保護者の方がたくさんいらっしゃる中で配慮の不足したコミュニケーションになってしまったことは残念であり、われわれも重く受け止めなければいけません」と福本氏は言う。

私立学校の合理的配慮に関する相談があった場合は、学校にフィードバックを行っているというが、東京都の条例に違反しても罰則規定はないため、都の対応は「学校にしかるべき対応をするよう促す」行政指導という形にとどまる。

とはいえ、都もこの状況を傍観しているわけではない。「実践的な話を聞きたい」という現場の声を受けて2024年11月、同課主催で「私立学校向け 合理的配慮の提供に関する研修」を開催。前出の菊田氏と学習障害のある人、弁護士を迎え、当事者の視点と私立学校のガバナンス改革という観点から合理的配慮を学べる構成にした。都内の私立学校70〜80校から、現場の教員をはじめ管理職、経営層まで100名超の参加があったという。

2024年11月に開催された「私立学校向け 合理的配慮の提供に関する研修」
(写真:東京都 生活文化スポーツ局 私学部 私学行政課提供)

「合理的配慮が必要なのは、発達に支援を要する児童生徒さんだけではありません。児童生徒の事情は千差万別ですから、学校は資源や教職員の体制などを丁寧に説明したうえでどのような寄り添い方をするか、保護者側もどこまで調整できるか、双方で模索する必要があります。法律や都の条例が目指すのは建設的な対話です。合理的配慮の提供は義務化されたので、今後さまざまな対話の事例が蓄積されていくでしょう。ただ、私学は先生の異動もありませんから、他校の取り組みを知る機会がなかなかないのかもしれません。先進的な取り組み事例の共有なども、われわれの使命だと思っています」(福本氏)

現場教員の思いから変わり始めた学校も

ボトムアップの形で変わり始めている私立学校もある。2024年11月に成城学園では同教育研究所主催で菊田氏の講演会「気づけば伸ばせる学習障害〜読み書き困難の解決をめざして〜」が行われた。「児童生徒の状況に応じて、学び方を選べることが当たり前になるような風土を全学でつくっていきたい」という現場教員の思いから実現したものだという。

菊田史子(きくた・ふみこ)
一般社団法人読み書き配慮代表理事
学習障害のある息子が慶応義塾高等学校へ進学したのを機に学習障害(LD)の社会的解決を目指して同法人を立ち上げる。LDを「知る(理解)・調べる(検査)・支援する」を柱に、データベース事業、セミナー・相談事業などを展開。「読み書き苦手な子供のスクールKIKUTA」は、著書『読み書き困難のある子どもたちへの支援〜子どもとICTをつなぐKIKUTAメソッド』(金子書房)でノウハウを公開している
(写真:菊田史子氏提供)

「学校側に合理的配慮の用意があっても、保護者がわが子の学習困難を認めないために子どもが合理的配慮を受けられないこともあります。合理的配慮には保護者のコンセンサスが必要ですから、今回の講演会には教員だけでなく保護者も参加できる形にしていただきました」(菊田氏)

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