「人手不足」は本当か?データからわかる現実とは 労働市場に低待遇で舞い戻ってくる人々の存在
「失業の非労働力化」と「非労働力の再労働力化」の同時進行をやや距離をおいて見てみると、労働コストを抑制せざるをえない企業(生産性の低い企業)が、失業プールにいる労働者(留保賃金が比較的高い求職者)に対して待遇の良い求人を出すよりも、非労働力プールにいる労働者(留保賃金が比較的低い求職者)に対して待遇の悪い求人を出す現象と解することができる。
上のように解釈すれば、新型コロナ禍が終息しても、有効求人倍率が低下傾向にあること、失業者の非労働力化が加速していること、そして、非労働力が就業の形で再労働力化していることを首尾よく説明することができる。
そうした現象は、少子高齢化であっても就業者数が拡大する一方、実質賃金がマクロレベルで低下してきたこととも整合的である。
「人余り」だから交渉力も高まらない
少なくともマクロ経済全体では、少子高齢化による「人手不足」など起きていない。
新卒市場を除けば、労働統計上は非労働力として潜在化してしまっている大量の労働力、特に高齢の求職者やパートタイム求職者は、待遇の良し悪しにかかわらず就業意欲が高い。マクロレベルで見た労働市場は、超過需要どころか超過供給に陥っていた。
労働市場全体としては、労働者の交渉力が高まり、労働分配率が上昇する地合いではなかった。
こうして見てくると、新型コロナ禍以降、「失業の非労働力化」と「非労働力の再労働力化」が同時進行した労働市場において、実質賃金が押し下げられてきたことは明らかであろう。
政府や日銀は、是が非でも「人手不足」や「賃金と物価の好循環」というレトリックで需要主導の経済回復を演出したいのであろうが、荒唐無稽なレトリックでリアリティを変えることなどできない。
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