【後編】教育現場に波紋広がる「不登校ビジネス」、専門家の視点とスダチの主張 自治体と民間企業の連携、文科省の見解は?
「アメリカでは、行動療法を行うにしても、専門家が発達の偏りなども含めて子どもの状況を把握し、どんなアプローチがその子に合っているかを見立てたうえで実施しているはずです。ところが、スダチでは専門的なトレーニングを受けていない親が、スタッフの助言の下で子どもの行動や認知を変えるという方法を採用しています。そのように親が主体となるのはアメリカの不登校支援の主流ではないはずですし、専門家の見立てのない行動療法が可能なのだろうか、と思います」
表現によっては消費者契約法や景品表示法に抵触する恐れも
スダチを利用した保護者によると、契約書には「サービスの内容を口外してはならない」とする口外禁止条項が盛り込まれていた。また、不安をあおって契約を促す事業者もいるようだ。こうした不登校ビジネスの契約面において、何か問題はないのだろうか。
弁護士資格を持つ兵庫教育大学教授の神内聡氏は、契約書全体を見ないとはっきりしたことは言えないと前置きしたうえで、次のように話す。

兵庫教育大学大学院学校経営コース教授・弁護士
東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科修了。専修教員免許(社会科)保有。日本で初めて弁護士資格を有する教員として私立中高一貫校に常勤教諭として勤務(現在は非常勤)しながら、現場の実情に通じた弁護士として各地の教育委員会のスクールロイヤーなどを担当。現在は教職大学院で理論と実務の懸け橋を意識した教育学研究にも従事
(写真:本人提供)
「口外禁止条項は業務委託などの契約では一般的ですが、対消費者との契約においては珍しい。専門的知識があることを前提とした企業や専門家間の契約とは違い、消費者は専門的知識や情報が不足しがちな立場にあります。そうした中で口外禁止条項があると、消費者は何らかの被害を受けたときに相談する権利が制限され、消費者契約法の主旨にそぐわない。また、不安をあおる、サポートが失敗しても一切責任を取らないといった記載がある場合なども消費者契約法に抵触する可能性があります。本来なら教育産業でもガイドラインがあることが望ましく、それにのっとったリスク説明もあるべきでしょう」
またスダチは自社HPや広告の中で「平均3週間で再登校」「再登校できたお子様90%以上」とアピールしてきた。これについて神内氏は、「サンプル数や測定期間といった数値の裏付けをしっかり示さないと、サービスの内容や効果を実際よりも著しく優良であると誤認させる優良誤認表示に該当し、景品表示法に抵触する恐れがある」と指摘する。
そのほか、スダチでは子どもにサービスを利用していることを伝えないように求めているが、この点についても、「子どもの意思をまったく確認しないで進めるのは、子どもの権利という観点から問題ではないでしょうか」と述べる。
「『親の子どもに対する関わりの影響力』は無視できない」
では、インターネット上での批判を含め、種々の指摘をスダチはどう受け止めているのか。
まず一連の批判報道に対して、小川氏は「ネガティブな情報だけが意図的に取り上げられていると感じる」と語る。

スダチ代表取締役
1994年3月26日生まれ、徳島県出身。関西大学経済学部卒業。2016年、新卒でアビームコンサルティングへ入社。1年目からプロジェクトリーダーに抜擢。2年目に新規部署の立ち上げメンバーを経験し、約2年間で0から50人規模のチームへ拡大。日常業務の中で「教育が変われば人も変わり社会も変わる」ことに気づき、2019年5月に退職し、スダチを設立。2020年7月に不登校支援事業を開始。2024年、教育立国推進協議会メンバーとして政府へ提言
(写真:スダチ提供)