高齢化・老朽化団地「理事長決め」の心理戦バトル "ポンコツ"の私が「理事長」を引き受けたワケ
ひとり、ふたりと数えてみると、集まっている新理事は10名で、2名足りない。ひとりは仕事で欠席。もうひとりは前任者からの連絡ができておらず、管理会社のフロントマンが急遽、迎えに行くことに。
「わざわざ呼ばれなくても、いつ理事が回ってくるのか、自分で気を付けておくものなのに……」ベテラン理事の一人が眉をひそめていました。
遅れてやってきた1名が「俺やらんでええやろ」砲を放つ
来るか来ないか分からない人をいつまでも待てるものではありません。管理会社のフロントマンが迎えに行っている間に、誰がどの役になるか、話し合いが始まりました。
理事長候補として、真っ先に名前が挙がったのはベテラン理事の中でも唯一、理事長経験のあるFさんです。ところが、「俺はアカン」。Fさんは健康面を理由に固辞されました。
じゃあ誰が理事長に?
役決めが難航した際、この団地では運を天に任せてくじ引きするのが習わしです。
私が引き当てたのは環境整備担当。この役は私にとってお馴染みで、過去2回、務めた経験があり、何より3名で分担するので気が楽です。その他の役に当たった人たちもおおむね納得している様子。ただ一人を除いては……。
「え~! 理事長なんて……」とつっぷしたのは女性理事Iさんでした。すると最年長理事Eさんが優しく声を掛けました。「もう1回引いたらええ」。
くじ引きの袋にはIさんが戻した「理事長」のくじ、そして「建物設備」のくじ、この2本が残されています。この場に現れなかった2名が「理事長」と「建物設備」を受けるのでしょうか?
そこへ勢いよく入ってきたのがあやうく欠席になるところだったA君です。何も知らされず、ふいをつかれて、かなり怒っている様子。部屋に入ってくるなり、「俺は賃貸やから理事やらんでええやろ!」と言い放ちました。
穏やかだった場の空気は一変。ベテラン理事たちは凍り付いてひと言も発しません。
沈黙を破ったのは私でした。ライターという職業柄、初対面の人と話すのは慣れています。
私「あのぉ……お、お名前は?」
彼「……A」
ベテラン理事Kさんが加勢してくれます。
Kさん「え?Aさん?……じゃあ、お兄ちゃんのほう?」
Aさん「……弟」
Kさん「まぁ、こんなに大きくなって! 昔はよく芝生の上で遊んでいたわね? ご家族のみなさん、お元気?」
Aさん「うん」
幼いころの彼を知っているKさんは、すっかり母親の眼差しに変わっています。対する彼もぶっきらぼうながらちゃんと返事をしている……団地のコミュニティは今も健在でした。