なぜインテルはAI半導体ブームに乗り遅れたのか。
2005年当時は、後に訪れることになるAI(人工知能)ブームの予兆はなかった。だが、大多数のコンピューターに電子頭脳として機能するチップを提供していたインテルの取締役たちは、テクノロジーの進化に変化をもたらす可能性のある決断に直面していた。
当時インテルのCEO(最高経営責任者)だったポール・オッテリーニは、取締役会に驚くような提案をした。コンピューターグラフィックス用チップで知られるシリコンバレーの新興企業エヌビディアを買収するというのだ。買収価格は最大で200億ドル。
一部のインテル幹部は、グラフィックスチップの基本設計が、やがてデータセンターで新たに重要な仕事を担うようになり、最終的にはAIシステムを席巻すると考えていた。
ところが、取締役会での議論をよく知る2人の人物が、会議の内容が極秘であったことから匿名を条件に語ったところによると、取締役会はこの提案に抵抗した。インテルはそれまで企業買収で芳しい成果を上げられておらず、しかも、この買収は同社が経験してきた中でも群を抜いて巨額の案件だったからだ。
2017年に死去したオッテリーニは、取締役会の懐疑的な反応を受けて手を引き、提案がそれ以上前進することはなかった。会議に出席したある人物は、後から思えば、それが「運命を決めた瞬間」になったと語っている。
買収する側がされる側に
現在、エヌビディアは他の追随を許さないAIチップの王者となり、世界で最も価値のある企業の1つとなっている。
一方、半導体業界のスーパーパワー(超大国)だったインテルは、AIゴールドラッシュの恩恵を受けることなく、経営が斜陽に。長年にわたりインテルに遠く及ばなかったエヌビディアの時価総額は今や3兆ドルを超え、苦境にあえぐインテル(時価総額は1000億ドルを下回っている)のおよそ30倍となっている。
インテルの企業価値が低下する中、一部の大手テクノロジー企業や投資銀行は、インテルが買収の標的になるという、かつては考えられなかった可能性を検討し始めている。