日本も本格導入、排出量取引制度への期待と課題 諸富徹・京都大教授「意味ある価格設定がカギ」

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――排出量取引制度は、脱炭素化を促すうえで、なぜ有効なのでしょうか。

脱炭素化の促進効果は間違いなくある。ただし、その程度は、排出量取引制度がどれほど厳格化されるか、その結果として実現する炭素価格がどの水準になるかによる。

もろとみ・とおる/横浜国立大学経済学部助教授、京都大学大学院経済学研究科助教授などを経て、2010年3月から京都大学大学院経済学研究科教授。主著に『環境税の理論と実際』『資本主義の新しい形』『グローバル・タックス―国境を超える課税権力』など(写真:諸富徹氏提供)

現在、CO2を多く排出する石炭火力発電のコストは、ガス火力発電のそれよりも低い。それを逆転させるだけの取引価格が形成されるかどうかが1つのカギになる。排出枠価格が低く、炭素価格を上乗せしたとしても、依然としてコストが低いということであれば、石炭火力発電は温存される。

再生可能エネルギーとの関係で言うと 、化石燃料に炭素価格が上乗せされて再エネとの間でコスト差が開けば、再エネの投資促進につながると見られる。

――排出量取引制度は、製品を購入する際にどのような影響を与えると考えられますか。CO2排出量の少ない、よりクリーンな製品の普及は進みますか。

一般の消費者が購入する末端の消費財であれば、炭素コストは価格全体に紛れてしまってあまり差別化できないかもしれない。他方、鉄鋼やセメントといった生産財の場合、それなりに価格に影響が及ぶだろう。

CO2を出さない製造過程に移行できれば、そうした素材産業で作られる脱炭素製品については価格差がついてくる。その意味では、購入する側の企業にとっても脱炭素製品を選ぶインセンティブが働くことになる。

制度を持たないと、海外での競争力に悪影響

――排出量取引などのカーボンプライシングは、日本企業の国際競争力にどのような影響を及ぼすと考えられますか。

これまで経済産業省や経済界などは、カーボンプライシングを導入すると、日本企業の国際競争力にマイナスになるとして反対してきた。しかし、世界の状況は変わりつつある。

EUは「炭素国境調整措置」(Carbon Border Adjustment Mechanism:CBAM)の導入を予定している。これは、EU域外からの輸入品に、炭素排出量に応じてコストを課す仕組みだ。EUは、EU域内と同じ水準のカーボンプライシングを輸入製品にも求めているのだ。

アメリカ大統領選候補のハリス氏の陣営でも、排出量取引制度の導入の必要性を支持する関係者が少なくないと言われる。アメリカではすでに州レベルで排出量取引制度の導入が進みつつあるうえ、カナダやオーストラリア、中国、韓国なども、国または地域レベルで導入している。

つまり、排出量取引制度などのカーボンプライシングを反映した取引は世界では一般的になりつつある。

そうした中で日本は導入が遅れている。きちんとしたカーボンプライシングの仕組みを持たないことで、むしろ海外市場から排除されかねない。逆にうまく対応できれば、日本企業の競争力強化にもつながってくる。

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