アメリカが核の傘で日本を守れない本当の理由 日米関係者はことを荒立てないため黙認している

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人質を取られている場合は、慎重に対応しなければならない。場合によっては、人質の解放を優先して、取引に応じる可能性もないとは言えない。
テロリスト集団が核兵器をもっている場合は、自国の国民が人質に取られているのと同じである。彼らの要求をはなから無視するわけにはいかない。核兵器が交渉力(政治力)に転化してしまうということである。

さて問題は、北朝鮮の核ミサイルである。北朝鮮の保有する核ミサイルは、テロリスト集団の核のように、アメリカに対する交渉力(政治力)になってしまう。なぜか。

それは北朝鮮の指導者が、北朝鮮の国民のことなどまるで気にかけていないからだ。北朝鮮が殺到する核ミサイルによってこの地上から消えてしまおうと、どうでもいいと思っているからである。(本当のところはどうかわからないが、少なくとも)相手にそう思わせることが、金正恩の交渉力(政治力)の源泉である。

同じことを逆から言えば、アメリカの核ミサイルは、北朝鮮の核ミサイルの威力と相殺できない、ということである。アメリカは北朝鮮の核ミサイル攻撃を、現実にありうる脅威として本気で心配しなければならない。アメリカは脅されてしまう。アメリカは北朝鮮の交渉力(政治力)を受けるということだ。

相手がテロリスト集団なら、さっさと叩きつぶしてしまえばよい。それができなかったとしてもいろいろ方法がある。北朝鮮は、叩きつぶされないように手を尽くしている。テロリスト集団と違って、国土も正規軍も官僚機構もある。

アメリカがどんなアクションを起こそうと、必ず反撃できる。いざとなれば、北朝鮮の核ミサイルは確実に飛んでくる。ワシントンDCやニューヨークに。

日本が攻撃を受けても、アメリカは核戦力によって、日本を守ることができない。つまり、日米安保条約は機能しないのである。

ポスト日米安保の時代

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北朝鮮が核戦力を整えたことによって、日米安保条約が機能しなくなること。日本の安全保障の基本が揺らいでしまうこと。これは著者の意見ではなく、事実だ。事実と理屈を積み重ねていけば、誰がどう考えたとしてもそういう結論になる。人びとはこのことをまず、しっかり頭に入れなければならない。

誰がどう考えたとしても、そういう結論になるのだとしたら、責任ある当事者はとっくに検討を進め、そう結論しているはずだ。アメリカ軍の参謀部や国務省の担当者や政治家も、自衛隊や外務省の幹部も。その割に彼らが静かなのは、うかつなことを言って、ことを荒立てたくないからだ。

橋爪 大三郎 社会学者、大学院大学至善館特命教授

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はしづめ・だいさぶろう / Daizaburo Hashizume

1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館特命教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『一神教と戦争』(集英社新書)など。

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