脱・事務方「大学職員」に求められる変化、生き残りに不可欠な「組織運営のプロ」 志願者数増加に頼る、量のアプローチには限界
こうした取り組みをしていると、大学組織が抱える課題がよく見えます。
実は外部から言われるまで、自学の中退率や留年率に誰も気づいていなかったというケースがしばしばあるのです。学生のデータにアクセスできる職員たちがみな、「その数字を調べることは自分の担当業務ではない。前任から引き継いだ作業にないし、誰からも指示されていない」と考えている。
中退予防には高校生段階での進路ミスマッチをなくす取り組みも大事ですが、教務部や入試広報部といった部署間での連携が難しいというケースもあります。「本学はこの層の学生を大きく伸ばせている」といった、学生募集で有効に使えそうなデータがあっても、それが広報部に届いていません。
非効率に増え続けるタスク、変えにくいルーティンワーク、そして高い部署間の壁。非効率なやり方だと思っていても前年踏襲を続けてしまう。こうした大学組織のありようが、学生募集も含め、必要な改革を妨げている場面は多々あるように思えます。逆に言えば、職員が自主的に動ける組織にすることで進む改革もあるはずです。
大学組織の特徴を踏まえ、改めるべき点を変えていくことが大切
『大学職員のリアル』では、こうした「やりにくさ」を生む大学組織の特徴として、①非営利組織であること、②規定主義、③複雑なガバナンスの3点を挙げました。
大学は営利企業と異なり、利益の最大化を目的としていません。掲げるミッションに基づき、望ましい教育や研究を維持することが大切です。だからこそ「この部署は何をもってミッションの達成を目指すか」という指標は自分たちで決めねばなりません。追うべき数字を自分たちで決めねばならず、しかもそれが多岐にわたる。企業よりも高度なマネジメントが求められます。
大学設置基準から学内の独自規定まで、大学はさまざまな規定やルールに基づき動いています。組織の独立性、自律性を守るうえでこれらの規定は大切ですが、困っている学生のためにマニュアルから外れた対応をした職員が批判されたり、さまざまな例外的ケースに対応するためのマニュアルが大量につくられ続けたりといった問題を引き起こすこともしばしばです。
教員と職員、教学部門と法人部門、本部キャンパスとサテライトキャンパス、文科省や自治体といったさまざまなステークホルダーが存在し、誰の意向を優先すべきか、誰が決断の責任を負うべきかがしばしば曖昧になります。
こうした組織の特徴を踏まえつつ、不都合な点を一つひとつ解消していくことが大切です。コロナ禍ではDX化が進み、学内会議の方法が刷新されたり、遠方の高校生にアプローチできる仕組みが整ったりといった変化もありました。その気になれば変えられることは多いはず。職員の方々の変化に期待しています。
(注記のない写真:y.uemura / PIXTA)
執筆:進路指導アドバイザー、追手門学院大学 客員教授 倉部史記
東洋経済education × ICT編集部
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